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第0389話

天河が戻ってきたとき、綿がテニスコートでラケットを振っている姿が目に入った。その姿を見て、天河の顔には安堵の色が浮かんだ。

天河の中の綿は、まさにこうして元気に満ちあふれているべきだった。生活の雑音に縛られ、リズムを乱されることなく。

綿の体力は十分あり、真一とほぼ互角に打ち合っていた。

もっとも、綿には真一が少し手を抜いているのかどうかは分からなかったが。

「こんなに上手にテニスをする女性は珍しいね」真一は惜しみなく称賛の言葉を口にした。

綿は水を飲みながら彼を一瞥し、「ありがとう」と返事をした。

「今度また一緒にプレーしましょう」真一はラケットを軽く回しながら、冷静な口調で言った。そこには越えてはいけない一線があった。

綿は頷いて、「いいわよ」と答えた。

「パパ」綿は天河に呼びかけた。

天河はコートに入ってからずっと電話をしており、何をしているのか綿には分からなかった。

今日のこのテニスコートは、まるで彼女のために選ばれたかのようだった。

綿は汗を拭いながら、外から「高杉社長も来てる?」という声が聞こえてきた。

「フィアンセも連れてきたって、本当か?」

スタッフたちはその噂を確かめようと、次々に外へと走っていった。

綿は何を話しているのか分からなかったが、顔を上げた瞬間、輝明とその友人たちが中に入ってくるのが見えた。

彼はどこにいても、何を着ていても、常に人々に囲まれ、そして一目で注目を集める存在だった。

今日の彼は黒いTシャツにゆったりとしたスウェットパンツを履いていた。

大学以来、彼がこんなラフな服装をしているのを見るのはほとんどなかったが、その姿はとても似合っていた。

いつも彼のスーツ姿を見慣れていた綿にとって、こんなカジュアルな輝明を見ると、まるで青春時代に戻ったような気がした。

その時、輝明も綿に気づいた。

だが、すぐに彼の視線は綿の隣にいる真一に向けられた。

輝明は眉をひそめた。

森川真一?

綿は、二人が互いに視線を交わすのを見て疑問に思った。彼らは知り合いなのか?

真一は立ち上がり、輝明の方に歩み寄った。

多くの人々が注目する中、真一は冷たく微笑んで言った。「高杉、久しぶりだな」

輝明は目を細め、真一の差し出した手を見ながら、軽く舌打ちをした。「確かに、久しぶりだな、森川」

綿は眉をひそめ、二人
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