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第0394話

話の流れで、綿はさらにこう言った。「雲城中の誰もが知っているわ、高杉輝明がかつて誘拐されたことを」

森下の目に一瞬走った驚きは、すぐに抑え込まれた。

「そうですね」

森下は口元に微笑みを浮かべた。「桜井さん、その背中の蝶のタトゥー、なかなか綺麗ですね。以前はそんなものを見たことがありませんでしたが?」

綿は無意識に背中に手をやり、軽く「ああ、以前はなかったのよ」と答え、病室のドアを開けて言った。「ここが佐藤旭の病室よ」

看護師がすでに掃除を終え、今は何もない空室になっていた。

森下は注意深く部屋の隅々を見回し、何か痕跡がないか慎重に確認していたが、結局何も見つからなかった。

「何か探しているの?」綿が問いかけると、森下は頷いて言った。「清掃の時、佐藤旭が何か物を残していなかったんですか?」

「何もなかったわ」綿は首を横に振った。

森下は数秒の沈黙の後、頷いて承諾した。

「何を探しているの?手伝いましょうか?」綿がさらに尋ねると、森下は少し複雑な表情を浮かべた。

森下は綿を見つめ、率直にこう言った。「桜井さん、一つ伺ってもいいですか?」

「どうぞ、好きに聞いて」綿は即答した。

「背中の……」森下が言いかけた瞬間、彼のスマホが鳴り始めた。

森下はスマホを取り出し、綿に「すみません、ちょっと電話に出ますね」と断った。

綿は軽く頷き、静かにベッドの縁に寄りかかって待っていた。

森下は何を聞こうとしていたのか?

彼女の背中の傷跡のことだろうか?

どうして彼もまた輝明と同じように、その傷跡にこだわるのだろう。

そう考えながら、綿は一瞬心を揺らした。

もし彼らが本当に知らなかったのなら……実際に輝明を救ったのは、自分だったということを。

森下は電話を終え、静かに綿に「桜井さん、急用ができました。また後でお話ししましょう」と告げた。

「わかった」綿は頷き、それ以上は何も言わなかった。

森下は部屋を出る際に、もう一度綿を振り返り、最後にため息をついて大股で歩き去った。

緊急室。

白衣を着た男性医師が森下を待っていた。

森下が近づくと、その医師は一枚の資料を手渡した。「これは陸川嬌さんの診療記録です。記録によると、彼女はその夜、背中に負傷し、大量に出血した状態で病院に運ばれました。

「その夜、段川先生が当直で、彼が陸川嬌さんを救った
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