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第0270話

「ボスが言った、この指は万物生灵に敬意を示すものだ!」雅彦は叫び、まるで狂気に駆られたかのように興奮していた。

綿は口元を上げ、何も言わずに微笑んだ。

雅彦は綿を見つめ、内心では満足感に浸っていた。

綿は顔を上げ、輝明の深くて冷たい瞳と向き合った。彼女は微かに笑みを浮かべ、「高杉さん、ありがとう」と言った。

その言葉を残し、綿は上を見上げて玲奈に視線を送り、撤退の合図を送った。

輝明の表情は複雑で、心の中には言葉にならない思いが渦巻いていたが、最後にはただ綿が去っていくのを見つめるだけだった。

玲奈は人混みをかき分け、賭けの場所に向かって行った。そして真剣な表情で言った。

「私は赤方に賭けて勝ちました。お金をいただきます」

賭けの係の青年は玲奈を意味深長な目で見つめたが、黄蔵の指示を受けて、桶の中のお金をすべて玲奈に渡し、さらに何束かの現金を追加で手渡した。

玲奈は一生懸命にお金を集めていたが、後ろから誰かにぶつかられ、バランスを崩し、今にも倒れそうになった。

その時、彼女の腕が急に引かれた。玲奈は顔を上げ、立ち直ることができた。

「大丈夫か?」秋年が心配そうに彼女を見つめていた。

玲奈は頭を振り、急いで「ありがとう」とだけ言い、綿と雅彦のもとへ向かった。

彼女は二度とこんな場所には来ないだろう。

秋年は玲奈の後ろ姿を見つめ、思わず笑みを浮かべた。大スターでもこんな場所に来ることがあるんだな、と。

「高杉社長、この指も渡しましたし、人も解放しました。今夜のことは、何もなかったことにしていただけますか?」黄蔵が懇願するように言い、秋年の思考を現実に引き戻した。

秋年は両腕を組み、輝明に視線を向けた。

輝明の顔色は非常に悪く、まるで最愛の女性が傷つけられたかのようだった。

そう考えると、以前の綿がどれほど彼を愛していたかがよく分かた。

この男が誰かを本気で守るとき、その愛情は計り知れないものだ。

「自分の人間をしっかり管理しろ」輝明は冷淡に黄蔵に言い放ち、それだけを告げて立ち去ろうとした。

「秋年、行くぞ」輝明は秋年に目配せした。

秋年はうなずき、すぐに後を追った。そして振り返り、高橋に「今度お茶でも飲もう」と言って手を振った。

高橋は笑顔で
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