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第0253話

輝明は綿の名前を見つめ、その複雑な眼差しを隠すことができなかった。

顔を上げて彼女を見ると、二人の間に突然隔たりができたかのように、彼には綿のことがまったく見えなくなっていた。

彼はポケットから万年筆を取り出し、離婚申請書をしっかりと押さえた。

周囲の空気が重苦しく、まるで彼を飲み込んでしまうかのようだった。

皮肉なことに、最も離婚を望んでいたはずの彼が、この日を迎えたことで最も不快感を抱いていた。

輝明は万年筆を強く握りしめ、眉をひそめて頭を垂れ、「綿、本当にこれでいいのか?」と問いかけた。

彼は彼女に最後のチャンスを与えているかのように見えたし、また自分にも何かしらの救いを求めているようだった。

しかし、彼が待っていた答えは返ってこなかった。

綿は短く「うん、もう決めたの」と返答した。

輝明は喉を鳴らし、一瞬怒りがこみ上げてきた。何故か、無性に腹が立った。

次の瞬間、彼は強い力で自分の名前をサインし、万年筆をきっちりと閉じた。

「これでよし、1ヵ月後にまた来てください」と職員が二人に言った。「もし1ヵ月後に誰も来なければ、離婚申請は自動的に取り消されます」

「ありがとうございます」綿は素直に頭を下げ、書類を手に取りながら言った。

彼女は突然思い出したように輝明に尋ねた。「離婚記念の食事、行かない?」

輝明は一瞬沈黙した後、「忙しい、時間がない」と言って、早足でその場を去ろうとした。

綿は軽く舌打ちしながら彼の後を追い、「食事の時間くらいあるでしょ?」と、サングラスをかけながら問いかけた。

輝明の視線が綿に向けられた。

窓から差し込む光が彼女に当たり、彼女は一層輝いて見えた。

「大学の門の前にあったあの四川料理屋さん、行かない?」綿は後ろ向きで歩きながら言った。

輝明は眉をひそめた。「四川料理屋?」

「大学卒業の日、あなたが奢ってくれるって言ったのに、途中で嬌に呼ばれて行っちゃったでしょ?」綿はエレベーターから降りながらそう言った。

あの時のことを思い出し、綿は軽くため息をついた。

そうか、あの頃からもう後悔がたくさんあったんだな。

それでも、私は無謀にもこの壁にぶつかり続けたんだ、と心の中でつぶやいた。

彼女は身分証や他の書類を片付け、車のそばに立ち止まり、輝明に「行く?」と尋ねた。

輝明は時計を見た。確かに、す
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