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第0256話

輝明は眉をひそめ、「一晩中泣いてたって?ここで?君が?」とつぶやいた。

女将は顎に手を当てて考え込み、驚いたように「ああ、そうだ!医学部の学生さんだったでしょ?」と言った。

綿は軽く咳払いをして、笑顔で「女将さん、たぶん人違いですよ。そんなことないです。今日が初めてです」と答えた。

彼女は絶対に認めたくなかった。

あの年、輝明に待ち合わせをすっぽかされ、悲しくなって一人でここに四川料理を食べに来たなんて、馬鹿げた話だと。

本当に傷ついた。彼が自分に約束してくれたその日をずっと楽しみにしていたのに、結局、嬌からの電話一本で、彼はそちらに行ってしまった。

そんな思い出は、綿にとって二度と振り返りたくないものだった。それなのに、思い出したくないことほど、人は何故か思い出させられる。

輝明は最初、その「泣いた」という人物が綿かどうかを疑っていたが、彼女が「初めて来た」と言った瞬間、確信した。

女将の言っていたのは、まさしく彼女のことだったのだ。

「お二人、夫婦でしょう?」と女将が笑顔で尋ねた。

綿と顧妄琛は一瞬目を合わせたが、それぞれ違う答えを返した。

綿:「違います」

輝明:「うん」

女将は驚いて目を瞬かせた。え?

綿は輝明を睨みつけた。もう離婚したのに、何を「うん」だと?

「違いますよ。彼は冗談を言っているだけです」と綿は笑顔で言った。

女将は満面の笑みを浮かべ、「分かってますよ。若い娘さんは、皆恥ずかしがり屋ですからね!」と返した。

「記念に写真を撮ってもいいですか?」と女将は尋ねた。「後でうちの周年記念の壁に飾りたいので!毎年何枚か写真を撮っているんです」

「もちろんです」と綿は快く答えた。

30周年の記念に参加できるのは、光栄なことだ。

女将は輝明の方を見た。彼はあまり気乗りしない様子だった。

しかし、女将が携帯を持ち上げると、彼も立ち上がった。

輝明は綿の隣に来ると、綿は小声で「撮りたくないなら、無理に撮らなくていいわよ。私だけ撮るから」と彼に言った。

輝明は特別な立場にあるから。

彼は何も言わず、綿と一緒に身をかがめて、女将のカメラを見つめた。個室の中は温かみのある照明が灯っており、写真に映る風景はさらに美しく映し出される。

彼は無意識に綿のそばに寄り、二人の肩がぴったりと触れ合った。女将は二人の前に立って、体
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