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第0252話

輝明が車から降りると、綿と目が合った。

綿は手に持った身分証明書、戸籍謄本、結婚証明書を軽く振って見せた。

輝明は唇を引き結び、黒のスーツに身を包んでいた。清潔感が漂い、その姿はいつも以上に端正だった。

しかし、その瞳には赤い血が走り、疲労の色が隠せないでいた。

「君は……」輝明が静かに口を開いた。

「行きましょう」綿は一歩も躊躇せず、輝明の言葉を遮るように先に進んだ。

輝明は眉をひそめ、心の中が複雑に絡み合っていた。

彼の足取りは重く、自然と綿が先を歩いていた。

綿の表情は、結婚証明書を取りに行ったあの時と同じだった。喜びと焦りが混ざり合い、まるで彼が後悔しないよう急いでいるかのようだった。

しかし、輝明の心はあの時とは全く違っていた。

あの時、彼は結婚を望んでおらず、全く協力的ではなかった。

結婚証明書の写真には、彼の不機嫌そうな顔が写っている。誰が見ても、無理やり結婚させられたことが分かるだろう。

今、すべてが彼の望む通りに進んでいるはずなのに、綿と別れて、これから嬌と一緒になれるはずなのに、どうしてこんなにも気が晴れないのか?

心の奥底で引っかかるものがあった。

輝明がそんな思いに浸っていると、綿が急に戻ってきて彼の腕を掴み、前に進ませようとする。「私が自由にしてあげるんだから、もう少し積極的になってよ」綿は軽やかに笑って言った。

通り過ぎる人々は二人を見つめ、さまざまな囁き声が輝明の耳に飛び込んできた。

「本当に離婚するのか?」

「輝明は本当に嬌と浮気してたのか?綿お嬢様が可哀想だ……」

「綿お嬢様、こんなに綺麗なのに、どうして嬌と比べられるのかしら?」

それぞれの言葉が輝明の心をかき乱していった。

輝明は歩調を速め、綿の前に出た。

綿は彼の背中を見つめ、すぐにその後を追った。

二人は離婚窓口の前に立ち、一緒に必要な書類を提出した。

受付には前回と同じ職員がいた。

綿は、この職員が美香の人ではないかと疑った。果たして今回、スムーズに離婚手続きが進むのだろうか?

職員は意味深に二人を見つめ、「本当にいいんですか?」と問いかけた。

「はい」輝明が先に答えた。

綿はもう一度輝明を見つめた。彼はただ静かに座っており、全身が暗雲に包まれているように見え、感情を抑え込んでいるようだっ
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