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第89話 あなたの気品を引き立てたかった

苑里は電話を終えると、瑛美の肩に手を置いて慰めた。「大丈夫よ、慶一はもうすぐ来るわ。何も言ってなかったから、心配しなくていいわ」

ビジネスセンター。

その頃、会議室から出てきた慶一は、電話を切ると冷たい眼差しを浮かべていた。彼のオーダーメイドのスーツは、そのクールで禁欲的な精鋭の雰囲気をさらに際立たせていた。傍らに控えていた秘書の勉志がすかさず近づいた。「社長......」

「瑛美のところに行って、代金を払ってこい。それと、服は全部鈴楠に渡せ」

苑里から鈴楠が自発的に服を譲ったと聞いていたが、慶一は瑛美が大人しくしていたとは到底思えなかった。

勉志は一瞬戸惑い、「佐藤さんに送るんですね?」と確認した。

「そうだ」慶一はそれだけを言い残した。

「承知しました」勉志は頷いてその場を去った。

勉志が店に到着すると、瑛美は店内の視線に耐えかねていた。表向きは丁寧だが、陰で自分を笑っていることがわかる。

店長が持っている録音がなければ、今すぐ店を飛び出したいところだったが、今は引き下がれない。

「藤原さん、橋本さん......」勉志は軽く会釈し、レジに向かって支払いを済ませた。

瑛美は得意げに店のスタッフを見下ろして、「藤原家のお嬢さんが、これくらいの代金を払えないとでも思うの?今日は財布を持ってきてないだけで、すぐに兄が支払いを済ませるわ!」

「かしこまりました。商品はすでに梱包済みですが、車までお持ちしましょうか?」と店長は丁寧に尋ねた。

瑛美は大きな手振りで答えた。「もちろん......」

「ちょっと待ってください。」勉志が手を上げて制止した。「商品は佐藤さんの住所に送ってください。住所が不明なら、佐藤グループに届けてください」

「何ですって?」瑛美は驚愕して勉志を睨みつけた。「どうして鈴楠に送るの?これは私のものよ!」

傍にいた苑里も驚いて硬直した笑みを浮かべた。「そうよ、これは瑛美のもの。鈴楠はもう譲ってくれたのよ。しかも彼女はもう帰ったわ」

勉志は丁寧かつ冷淡に微笑んだ。「社長の指示ですので、その通りに従っております」と答えた。

彼は店長に合図を送った。店長はすぐに言われた通りに行動した。

誰が代金を払うかがすべてだ。それがルール。

苑里は陰鬱な表情を浮かべ、手が徐々に強く握られていた。

瑛美は悔しさに足を踏み鳴らし、声を荒
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