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第338話

「もしもし?」

低くて魅力的な声だけど、かなり冷たい。そんな男の声が電話から聞こえてきた。

聡はゆったりした口調で言った。「ボス、小松さんが冬木から離れるみたいよ。何かするなら早めに動かないとね」

その言葉に雅之は顔をしかめ、「それ、彼女が自分でそう言ったのか?」と問い返した。

「そうよ」

「で、どこに行くって言った?」

聡はクスッと笑って、「まだ二度目に会ったばかりよ。会ってくれただけで驚いたくらいだし、そんなこと教えてくれるはずないじゃない?」と答えた。

雅之は冷ややかに、「もっとちゃんとやれよ。でないと、年末のボーナスはなしだ」と言い残し、電話を一方的に切った。

聡はスマホを睨みつけながら、小声でぼやいた。「ほんと、あの資本家は最悪だわ!」彼女は心の中で呪うように思った。「奥さん追いかけたって、絶対捕まえられないわよ!」

里香は家に帰り、夕飯の準備を始めた。その後、祐介にメッセージを送る。

「祐介兄ちゃん、今夜お邪魔してもいい?」

「もちろん」

スマホをしまい、作った料理を包んで病院へ向かった。

病室のドアを開けると、祐介がゆっくりとベッドに向かって歩いているところだった。部屋には他に誰もいなかったが、その歩みは辛そうだった。

里香は慌てて駆け寄り、彼を支える。「祐介兄ちゃん、なんでベッドから降りたの? 骨折には100日かかるんだから、無理したら治りが遅くなるよ」

祐介は微笑みながら、「ずっと寝てると体が鈍っちゃいそうでさ。少しは動かないとね」と答えた。

彼の微笑みを見ながらも、里香は心配そうな顔をしていると、祐介がふと言った。「雅之、絶対後悔してるよな」

里香は一瞬言葉に詰まったが、彼をベッドに座らせ、手を離した。

「今夜の夕飯、気に入るといいんだけど」

彼女はその話を続けなかったし、続ける必要も感じなかった。

祐介の目が一瞬光り、彼は頷いて「ありがとう」とだけ言った。

里香は小さなテーブルを準備して、料理を並べ始めた。

今日は幸い、誰も邪魔をしに来ることはなく、祐介は静かに夕食を楽しんでいた。里香は彼の横に座り、時折スマホをいじっていた。

ふと、祐介が口を開いた。「里香、明日は来なくていいよ」

「え?」里香は驚いて顔を上げた。「どうして?」

「海外に行くことになったんだ。いつ戻れるか分からないけど、できるな
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