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第337話

聡は手に持っていたミルクティーを差し出し、「やっぱりミルクティーがいいよ。コーヒーは苦いし、美味しくないでしょ」と言った。

里香はそれを受け取り、「ありがとう」と答えた。

聡は続けて、「先にこのビルの中を見てみましょう。ここには二つの物件があって、不動産業者が言うには良さそうだけど、私はあんまりピンとこなくて。あなたに見てもらおうと思って」と提案した。

里香は少し考えて、「私もその辺りは詳しくないかも。ところで、どんなスタジオを開こうとしているの?」と尋ねた。

聡は「建築デザインスタジオを考えているんだ」と答えた。

その言葉を聞いた瞬間、里香の目が一瞬輝いた。彼女自身が建築デザイナーだからだ。

聡は何かを思い出したように里香を見て言った。「そういえば、あなたの資料を見たことがあるけど、建築デザイナーなんだよね?今はどこで働いていますか?」

里香は「今は仕事していないわ」と静かに答えた。

聡は目を輝かせ、「それなら、私のスタジオで働いてみませんか?前の会社よりも良い条件を出すし、時間も自由にできるよ。私はあなたのアイデアに口出しもしないし、ぜひ検討してみて」と言った。

里香はまさかこんな風に仕事の誘いを受けるとは思わず、微笑んで丁寧に断った。「ありがとう。でも、今はまだ仕事を始めるつもりはないの。実はこの街を離れるかもしれなくて」

聡は一瞬驚いて目を瞬かせ、「冬木を離れるって?どこに行くつもり?」と尋ねた。

里香は軽く目を伏せ、「とりあえず、物件を先に見てみましょう」と話を切り替えた。

「そうですね」と聡はすぐに理解し、それ以上質問するのをやめた。ちょっと急ぎすぎたと反省し、これ以上聞くのは失礼だと思った。

二人はエレベーターから降りて、いくつかのスタジオが入っているフロアに着いた。中の人たちは皆忙しそうに働いていた。

聡はあるドアを押し開け、「ここですよ」と言った。

里香が中に入ると、広々としたスペースがあり、以前の会社が残したオフィス用の机や椅子がきちんと整理されていた。とても清潔な印象だ。

里香は窓辺に立ち、外の景色を眺めた。

「どう?」と聡が尋ねた。

里香は「まあ、普通ね。でも、あなたの予算はどれくらいなの?」と聞き返した。

聡は唇をわずかに上げて笑い、「予算はないよ。居心地が良ければそれで決めるさ」と答えた。

里香は少
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