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第320話

吐き気がする。

雅之の顔が暗くなり、「夏実とは何もなかったんだ」と言った。

里香は一瞬息を飲んだ。

雅之は視線をそらしながら、喉を乾いたように動かして、「本当に何もなかった。ただ、他の女が僕のベッドにいるってことがどうしても許せなくて、お前を懲らしめたかっただけだ」と続けた。

里香は彼の鋭い横顔を見て、馬鹿馬鹿しくて仕方がなかった。この件で、一番ひどい目にあってるのは自分じゃないか、と。

そう思った瞬間、涙が溢れ出し、堪えようと唇を噛んだが、結局耐えられずそのまま泣いてしまった。

雅之の胸が一瞬締め付けられるような痛みが走り、不快な感情がこみ上げた。すぐに彼女の側に寄り、「里香......」と声をかけた。

「出てって!」里香は涙で滲んだ目で睨み、掠れた声でそう叫んだ。

雅之は動揺した。たとえ言い訳は通じても、里香を誤解してあんなひどいことをしたのは事実。里香が怒るのは当たり前で、全部自分が悪いんだ。

それでも出て行かずに、さらに一歩近づいて「怒りが収まらないなら、僕を殴ってもいい」と言った。

里香は本当に彼を叩いた。しかし、病気で体力がないため、その一撃は弱々しかった。

雅之は彼女の手を優しく握り、「ごめん」と謝った。

感情が少し和らいだのか、里香は手を引き抜き、静かな声で「雅之、離婚したいの」と言った。

もう彼とは関わりたくない。こんな惨めな日々、もう耐えられない。

その言葉を聞いた雅之の顔から、さっきまでの後ろめたさが消え、目が再び冷たく鋭くなった。何か言おうとしたその時、病室のドアがノックされた。

桜井が食事の入った箱を持って入ってきた。部屋の異様な雰囲気を察したのか、何も言わずに食事を置いて出て行った。

雅之は唇を一文字に結び、小さなテーブルをセットして食事の箱を開け、一つ一つ料理を並べ始めた。

「とにかく、まずは少し食べろ」と雅之は里香に向かって言った。

里香は彼を見ようともしなかった。

雅之はさらに冷たい声で「食べなくても、お前に食べさせる方法はある。それは嫌だろ?」と脅すように言った。

仕方なく、里香は彼を睨みながらも起き上がり、箸を取って食べ始めた。

本当に空腹だった。鶏肉のお粥を一口すすると、少し元気が出て、小菜も少しつまんだ。食べ終わると、体力が戻ってくるのを感じた。

雅之はずっと黙って彼女を見守ってい
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