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第312話

里香は必死にもがいたが、雅之の力は圧倒的で、まるで手首が折れそうなほど強く握られていた。痛みで顔が青ざめていった。

思わず、里香は雅之の腕にガブッと噛みついた。

雅之は一瞬動きを止めたが、それでも手を緩めず、黙って彼女が噛むのを見ているだけだった。

血の味が口の中に広がり、力が尽きた里香は大きく息を切らしながら、澄んだ瞳に怒りを宿して言った。「何しに来たのよ?もう二度とお前の顔なんか見たくない!離して!」

「お前、自分の立場を忘れたのか?」

雅之はさらに強く里香を引き寄せ、もう片方の手で彼女の首を掴んだ。その冷たい目には鋭い光が宿っている。

「離婚には同意してないって言っただろう?お前は一生俺と一緒だ。それなのに、離婚もしてないのに他の男の家に転がり込むなんて、死にたいのか?」

里香は抵抗しようとしたが、体調が回復したばかりで、まだ何も食べていないせいか力が入らない。怒りで顔が真っ赤になりながらも、「私はお前の囚人じゃない!まだ離婚してないけど、もうお前に私の人生をどうこう言う権利なんてないわ!」と叫んだ。

「権利がない?」

雅之は冷たく笑い、「今からその『権利』ってやつを教えてやるよ」と言い放ち、彼女を無理やり抱きしめたまま外へ歩き出した。

「里香......ゴホッゴホッ......」

祐介はようやく息を整え、里香が強引に連れ去られそうになっているのを見て、必死に立ち上がり追いかけようとした。

「祐介兄ちゃん!」里香はその姿を見て、胸が締めつけられるような後悔の念がこみ上げ、涙をこぼした。

全部自分のせいだ。もっと早くここを出ていれば、祐介が雅之に殴られることもなかったのに......

里香が「祐介兄ちゃん」と呼んだのを聞いて、雅之の顔はさらに険しくなった。

あいつとそんなに離れたくないのか?

祐介は執事に向かって怒鳴った。「誰かを呼んで、あいつを止めろ!」

執事は心配そうに言った。「旦那様、このままでは病院に行かれた方が......」

「いいから、俺の言う通りにしろ!」

祐介は激しく咳き込み、血を吐いた。その顔はますます青白くなっていった。

「わ、わかりました......」

執事は命令に逆らえず、急いでボディーガードを呼んで雅之を止めようとした。

雅之の瞳には、冷たい軽蔑の色が浮かんでいた。

祐介はなんとか立ち上がり
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