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第218話

ゆかりは言った。「彼女が戻ってくるなんて、まさか当時のことをもう恨んでないってこと?」

幸子は、「私もまさか戻ってくるとは思わなかったわ。でも、ゆかり、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。もし彼女が何か気づいたらどうするの?」と焦った様子で言った。

ゆかりは笑って、「大丈夫だよ、院長。彼女は何も知らないから。でも、万が一のために、当時やり残したことをちゃんとやっておけばいいんじゃない?」と冷静に答えた。

幸子の目が輝き、「そうね、分かったわ!」と言った。

そして、すぐに彼女は尋ねた。「ゆかり、あなたはいつ戻ってくるの?もうずいぶん長いこと、私に会いに来てないじゃない」

ゆかりの声色が少し冷たくなり、「院長、今ちょっと忙しいから、あとで五十万振り込んでおくわ。それで美味しいものでも買って食べて」とそっけなく言った。

「ええ、ありがとう。やっぱり私のゆかりは一番気が利くわ。あの里香とは違って、戻ってきてもガラクタばっかり買ってきて、誰もそんなの欲しくないのに!」

電話を切った後、幸子の目が光り、彼女は目を細めながらスマホを見つめ、しばらく探してからある番号に電話をかけた。

「もしもし?前田さんですか?里香のこと、覚えてますよね?」

孤児院を出た後、哲也は言った。「里香、院長の性格は昔からあんな感じだから、気にしないでね」

里香は彼を見つめ、「どうしてここに戻ってきたの?外の世界にはもっと広い可能性があるし、もっと多くのチャンスに出会えるのに」と尋ねた。

哲也はインテリアデザインを学んでいた。小さな町ではあまり仕事がないが、大都市に行けば、彼はきっと自分の道を切り開けるだろう。

哲也は答えた。「俺は院長に恩返しがしたいんだよ。もし彼女が俺を拾ってくれなかったら、あの冬に俺は凍え死んでたはずだから」

里香は黙り込んだ。

かつて、彼女も同じように思っていた。でも、人は変わるし、考え方も変わるものだ。

里香は言った。「じゃあ、私は先に行くね」

哲也は頷いて、「うん、もし長くこっちにいるなら連絡して。最近この辺もだいぶ変わったから、案内してあげるよ」と言った。

「うん」

里香は微笑んだ。太陽の光が彼女に降り注ぎ、その美しい顔立ちが一層際立ち、目が澄んで輝いていた。

哲也は一瞬、目を奪われたが、里香はすでに車に乗り込み、走り去って行った。

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