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第163話

その言葉を聞いた瞬間、里香はこの件を思い出し、一瞬固まったが、首を振って「今は売るつもりはないわ」と答えた。

祐介は頷きながら、何か言いたそうにじっと彼女を見つめていた。

「じゃあ、私は先に行くね。じゃあね」

里香がそう言うと、祐介は「うん」とだけ答え、振り返って、あの男たちの方へ歩いていった。

里香は深くため息をつき、別の方向へ歩き始めた。

今、頼りにできるのは検査結果だけ。それが出るまで、疑いが晴れることはない。今の自分にできることは、ただ待つことだけ。

しばらく歩いていると、後ろから車のエンジン音が聞こえてきた。

さっきのことがあったばかりなので、里香は横に避けてぶつからないようにした。

「ピッ!」

ところが、その車は里香の横でスピードを落とし、クラクションを軽く鳴らした。振り返ると、祐介が車の中から微笑んでいた。片手を窓枠に置いて、淡い笑みを浮かべながら「乗って、送ってあげるよ」と言った。

里香は驚いた。祐介がそのまま行ってしまうと思っていたのに、車を取りに行っていたなんて。

「祐介さん、本当に大丈夫だから。家はここからそんなに遠くないし、ちょっと歩けば着くから」

里香は遠慮がちに断ったが、祐介は「ちょうど俺も帰るところだし、道も同じだから気にしないで。友達じゃないか」とさらりと言った。その一言に、里香が言おうとしていた言葉は消えてしまった。

祐介は命の恩人。これ以上彼の申し出を断り続けるのも、さすがに失礼だ。

そう思った里香は微笑んで「じゃあ、お言葉に甘えて」と言い、助手席のドアを開けて車に乗り込んだ。

祐介は車を発進させ、カエデビルの方へ向かって走り出した。運転は無造作で、それでも精巧な顔立ちにはどこかいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。

「聞いたけど、雅之が中毒になったんだって?」

里香は驚いて、「どうして知ってるの?」と尋ねた。

祐介は「雅之くらいの立場なら、この冬木で何かあったらすぐにニュースになるよ」と言い、続けて「君、そのことで落ち込んでる?」と彼女を一瞥しながら尋ねた。

里香は軽く頷いた。

祐介は興味深そうに「実はさ、君たち二人がどうして一緒にいるのか、ちょっと興味あるんだ。別に変な意図はないけど、君たちの身分や地位が全然違うし、生活が交わるなんて想像もしてなかったからさ」と言った。

里香は一瞬言葉に詰
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