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第2話

私は早くに気づくべきだった。

弘樹はもうずいぶん前から変わっていた。

母は元々風間家の家政婦だった。

十年前、風間家に空き巣が入り、母は弘樹を守るために命を落とした。

風間家の人はその恩義を私に向け、「お前の母親のおかげであの時弘樹は助かった。ありがとう」と感謝の言葉をかけてくれた。

いつも無口で高貴な態度を取る弘樹も、私の手を取り、「理奈、心配するな。僕は一生お前を守る」と誓った。

今思えば、その言葉を真剣に受け止めたのは私だけだった。

弘樹は私に優しく、私はそんな彼に惹かれ、結婚前に柚希を産んだ。

当時は私たちが結婚するのは自然な流れだと思っていた。

しかし、彼が会社を継いだ後、別の女性の存在が目立つようになった。

私たちの会話の中で織絵という名前が頻繁に出てきた。

彼は織絵のことを賢くて気立てが良いと言った。

自分でも気づかないまま、彼は織絵の話をすると笑顔を見せていた。

ある時、我慢できずに聞いてみた。「弘樹、明日からは織絵の話はやめてくれない?」

彼は少し驚いた様子で、笑って返した。「嫉妬してるのか?」

私は自分に言い聞かせた。ビジネスの世界では仕方ないこともあるだろうと。

だが、スーツに残されたファンデーションの跡、助手席からの見知らぬ香水の香り、幼稚園の親子イベントで欠席した代わりに織絵と犬の散歩に行ったこと、そして私が熱を出したとき、一瞥してすぐに織絵の生理痛のために去っていく彼の姿。

それらすべてが私を黙らせることはなかった。

「弘樹、あなたと織絵の関係は何なの?」

しかし、彼はもう私を宥めるつもりはなかった。

「理奈、お前は僕の妻じゃない。どこに僕に文句を言う権利がある?

僕はお前と柚希を養っているんだ、もっと感謝すべきだろ。

これだけ長く一緒にいれば、もう僕はお前のために何も負わない」

私は唇を噛んで言葉を失った。

彼にとって私はただの隠し女だったのだ。

彼の優しさは施しのようなものだった。

その後、柚希は白血病と診断され、体調は悪化の一途を辿った。

その頃には、弘樹は私たちを見に来ることもなくなりつつあった。

五歳の誕生日に、柚希は父親と一緒に過ごしたいと言った。

しかし、その日、弘樹は織絵との旅行のためにその約束を破った。

電話で私は泣きながら懇願した。「柚希には時間がないの。最後だけでも一緒に誕生日を祝ってくれない?」

弘樹は冷笑した。「そんなこと言って意味があるのか? 亡くなった母親のことを引き合いに出すはもう飽きたか? 今度は娘を使って同情を誘うのか? 悪趣味にも程があるだろう!」

「お前の心根は子供にまで悪影響を与えるな。織絵のように思いやりを持つべきだ」

私は泣き叫んだ。「弘樹、嘘じゃないよ、柚希は本当に死んじゃうの」

彼は鼻で笑った。「なら死ねばいい」

その夜、柚希は私の腕の中で息を引き取った。

朝、私は彼女にプリンセスドレスを着せた。骨と皮だけになっていたのに、まだ踏み台に上って私の顔を撫でて慰めてくれた。

「ママ、泣かないで。私、きれいでしょう?」

救急室に運ばれる前、呼吸が苦しそうだったのに私の手を握り締めて言った。

「パパに会えてない。会えるまで手術室には入らないから。

ママ、パパは来るよね?」

涙をこらえて、彼女が手術室から出たらパパに会えるよと約束した。

ドアが閉まる瞬間、私は涙を流した。

織絵のLINEには、「約束していた二人旅、ついに実現したわ!」という投稿が更新されていた。

写真には二人の組んだ手が映っていた。

どうやって柚希に伝えればいいのだろうか。

待つことはもうできない。

弘樹はすでに織絵と共に遠くへ行ってしまった。

最期に柚希は微笑んで、静かに言った。「ママ、パパは遅れてくるの?ちょっと眠っちゃうね。パパが来たときは起こしてくれるよね?」

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