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第009話

私が人工湖に到着した時、陸川蓮はまだ湖のほとりに座っていたが、もう酒は飲んでいなかった。

「蓮くん!」

私が名前を呼ぶと、陸川蓮はその声に反応して顔をこちらに向けた。

「志織?」

彼は私を見つめていたが、その目には酔いが強く表れていて、どこか焦点が定まっていなかった。

「本当に君なのか?」

「なんでこんなに飲んだの?」私は彼の隣に座り、まだ空になっていない酒瓶を片付けながら言った。「もうやめて」

陸川蓮は頷いたかと思うと、また首を横に振った。ただ、彼の目はずっと私に向けられていて、少しぼんやりした様子だった。声もいつもより遅く、重かった。

「酒を飲まないと、辛いんだ」

私は思わず尋ねた。「なんで辛いの?」

陸川蓮は視線を下げ、私の手を握り、それを自分の胸に当てた。

「ここが痛むんだ。

君が、もう僕を必要としないから」

まるで心に小さな棘が刺さったような痛みが走り、私は鼻の奥がツンとした。

「誰があなたを必要としないなんて言ったの?」

酔っているせいか、陸川蓮は普段よりも饒舌だった。

「だって、君が好きなのは藤木悠馬だろう。

僕は大学一年の時から、君が好きだった。でも君はずっと藤木が好きで、僕のことなんか見てくれなかった。

今回の機会は、僕が盗んだものだ。君が記憶を取り戻したら、僕のことを嫌いになるんだろう」

そう言いながら、陸川蓮の声はだんだん小さくなっていった。

同時に、私は心の奥にしまい込んでいた記憶の断片を、少しずつ思い出し始めていた。

大学一年生の時、冷たい印象のある、声のいい男子が、初めての授業の後に私に声をかけてきた。「一緒にグループを組まない?」と。

その時、私は「彼氏と組むから」と答えた。

その後、クラスの集まりや藤木悠馬の友人との食事会、そしてさまざまな授業で、どこに行っても陸川蓮の姿があった。

だが、藤木悠馬がいたせいで、私は彼がずっと私を見ていたことに一度も気づかなかった。

もしあの動画がなかったら、藤木悠馬との表面的な関係が壊れることもなかったし、そして偶然が重なって、陸川蓮が私の「一時的な彼氏」になることもなかった。

もしかしたら、彼はずっとこの気持ちを心の中に秘めたままで終わっていたかもしれない。

私は少し目頭が熱くなった。

「蓮、私、藤木悠馬とは別れたよ。カラオケで彼が言ってたこと
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