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第002話

ちょうどその時、私は目を開けた。

私が目を覚ましたのを見るやいなや、男はすぐに声を上げた。

「先生、彼女が目を覚ましました!」

私はその男をじっと見つめたが、激しい痛みのせいで、頭が一瞬うまく働かず、言葉が出てきた。

「あなた、誰?」

目の前の男は、驚きから興奮に変わり、その後、何とも言えない奇妙な表情を浮かべた。

「俺だよ、藤木悠馬」

彼はさっきまでの心配そうな表情を一瞬で隠し、ぎこちなく笑った。そして半歩後ろに下がると、隣にいた別の男を私の病床の前に押し出した。

その男を振り返ると、冷たい表情がわずかに心配そうな色を帯びた、涼しげな目で私を見つめていた。彼のその切れ長の目には、どこか冷ややかな美しさがあったが、その奥には確かに不安が漂っていた。

「陸川蓮だよ。君の彼氏だ」

「俺は悠馬のルームメイトで、君の隣人でもある。君が事故にあったって聞いて、一緒に来たんだ」

病室の空気が一瞬にして凍りついた。私はその男――陸川蓮が隣に立っている藤木悠馬の方に、少し怒りを含んだ視線を送っているのを見た。

悠馬は気まずそうに肩をすくめながら、蓮の腕をつつき、何か合図を送るような仕草をしていた。

陸川蓮は片方の手をギュッと握りしめたかと思うと、すぐに力を抜いた。そして、藤木悠馬には返事をせず、私のベッドの前にしゃがみ込み、優しく聞いてきた。

「体調はどう?頭、まだ痛いか?」

私は軽く頷いたが、その動きが傷口を刺激し、思わず顔をしかめてしまった。

「動かないで!」

彼の声には少し焦りが滲んでいた。

「傷に触ると危ないよ」

私は瞬きをして、口を開いたが、声は少し掠れていた。

「あなたが、私の彼氏なの?」

陸川蓮の瞳に一瞬の迷いがよぎり、彼は答えようと口を開いた。

だが、その前に、隣にいた藤木悠馬が慌てて言葉を遮った。

「そうそう!彼が君の彼氏だよ!」

「陸川、君はここで彼女を見てあげて。美咲先輩の方から急な用事で呼ばれたんだ。俺、先に行くわ」

そう言うと、彼は慌ただしく病室を出て行った。まるで部屋の中に危険な獣でもいるかのように、早足でドアを閉めた。

悠馬が去った後、陸川蓮は私の方に顔を戻し、しばらくの間、躊躇していたが、結局、小さく頷いた。

「そうだよ、俺が君の彼氏だ」

私は傷口が痛むのを恐れて大きな表情は作らず、控えめに微笑んだ。そして手を伸ばし、彼の手にそっと触れた。

「彼氏さん、水が飲みたいな」

陸川蓮の顔立ちはどこか冷たく、無表情の時は特にその冷たい雰囲気が強く、まるで「近寄るな」と言わんばかりのオーラを放っていた。それに、顔つきだけでなく、性格もクールで無愛想だった。

だが、そんな彼が意外にも面倒見が良かったのだ。私をそっと起こして水を飲ませてくれたり、リンゴを剥いて、一口サイズに切り分けてくれたり。その細やかな気遣いに、回診に来た看護師さんさえ思わず笑っていた。

「あなたの彼氏さん、見た目に反して、ずいぶん細かいところまで気が利くんですね」

看護師さんの褒め言葉にも、陸川蓮は無表情のままだったが、彼が真剣に私が食べる果物の様子を見つめているのが分かった。

私の記憶が欠けていることについて、医者はただ「事故による脳への衝撃で、血腫ができているだけだ」と説明した。

「でも大丈夫、深刻ではないから、最長でも1ヶ月で治るはずです」と。

今、私が知っているのは、私と陸川蓮が同じ大学、同じ学科の学生だということだけ。

でも、どうしても「彼が私の彼氏」という事実には、どこか引っかかるものを感じていた。

例えば、病室のテレビで一緒に映画を見ている時、無意識に彼の手を引っ張ったり、彼に甘えるように寄り添いたくなったりする。

でも、初めて彼の肩に頭を乗せた時のことを、私は今でもよく覚えている。陸川蓮の体が一瞬でガチガチに固くなり、まるでどうしていいか分からないような感じだったのだ。

顔を上げて彼を見たら、耳の先が真っ赤になっているのが目に入った。まるで熱湯で火傷したかのように。

「蓮、私たち、付き合ってどれくらいになるの?」

陸川蓮は一瞬驚いたように目を見開き、そして淡々と答えた。

「3年だよ」

私は少し不思議に思った。

もう3年も付き合っているのに、どうして彼は毎回私が手を繋ぐたびに恥ずかしがるんだろう?

目が覚めて1週間が過ぎた頃、あの「隣人」であり、陸川蓮のルームメイトだと名乗る男が、また私の病室に現れた。

その時、私はすでに医者から退院の許可をもらっていて、陸川蓮は嫌な顔ひとつせず、せっせと私の荷物を片付けてくれていた。

この荷物も、入院初日に彼が持ってきてくれたものだ。

その時、藤木悠馬が病室に入ってきた。私はちょうど陸川蓮の腕を抱きながら、彼が荷物を整理するのを見ていた。

「蓮、私たち一緒に住んでないの?まだ寮に住んでるの?」

「学校の近くに引っ越そうか?最近、寮は不便だって前に言ってたじゃない?」

陸川蓮は困ったような表情を浮かべ、私がまるでタコのように彼にしがみついている中、なんとか整理を続けながら言った。「もう少し考えよう」

私は少し不満を感じて、彼をからかいたくなった。彼がよく耳を赤くするのを思い出し、彼の首に抱きついて、そのまま頬に「チュッ」とキスをした。

「ねえ、早く決めようよ。お願い、いいでしょ?」

「何をしてるんだ!」

その瞬間、藤木悠馬が勢いよくドアを開け、怒りの表情で部屋に入ってきた。

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