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第003話

朝早く、佐藤グループの本社ビルは厳粛な空気に包まれていた。

社員たちは一列に並び、緊張感を持って社長の到着を待っていた。

時計が8時を打つと、豪華な車がエントランスに停まった。

執事風の男性が副運転席から素早く降りてきて、後部座席のドアを開けた。

黒いスーツに包まれた長い脚が地面に着き、涼介が冷淡な表情で車から降りてきた。

孤高で冷徹、その圧倒的なオーラは周囲の空気を一瞬にして凍らせた涼介。

前方を見据えながら、大股で階段を上り始めた。

「パパ――!」

突然、幼い声が静まり返った空気を破った。

社員たちは驚いて目を向けた。

そこには、どこから現れたのかわからない小さな女の子が、ぎこちなく階段を登っているのが目に入った。

彼女はピンク色のプリンセスドレスを着ており、顔ははっきりとは見えなかったが、その高貴な雰囲気はまさに涼介そのものだった。

小さな女の子は、階段を上りきると、涼介の脚にしがみついた。

涼介の長身に対し、女の子は非常に小さく、雪のように白い小さな腕がかろうじて彼のふくらはぎに届く程度だった。

「パパ――」

あかりは悲しそうに呼びかけた。

その場にいた全員が驚愕した。

涼介は下を向き、足元の小さな存在を見つめると、眉間に一瞬の苛立ちが浮かんだ。「離れろ!」

だが、あかりは顔を上げ、涼介とほとんど同じ顔を見せた。「パパ......」

「佐藤さん、この子は......」

隣にいた執事は驚いて目を見開いた。この子供が涼介にこんなにも似ているなんて!

「パパ、おんぶして――」

あかりは幼い両手を伸ばし、潤んだ大きな目で涼介を見つめた。

彼女の目は澄み切っていた。

涼介の心が不意に揺れた。

普段は子供が苦手な彼だったが、今日はなぜか、この見知らぬ小さな女の子を抱きしめたいという衝動に駆られた。

少しの間ためらった後、高身長の涼介はしゃがみ込み、あかりを抱き上げ、大股でビルの中へと入っていった。

「ここを封鎖し、調べろ!」

これほど小さな子供が一人でここに現れるはずがなかった。

*

「佐藤さん、DNA鑑定の結果が出ました」

本社ビルの最上階にある社長室で、助手は手を震えながら一枚の報告書を差し出した。「彼女は......確かに佐藤さんのお子さんです」

涼介はその鑑定結果をすぐさま手に取った。

親子関係が99.9%と記載されているのを見た。この小さな女の子は確かに彼の子供だった。

しかし、彼は桜井紗月以外の女性と関わった記憶がなかった。

彼は突然顔を上げ、ソファに座っている小さな女の子を一瞥した。

彼女はソファに寄りかかり、ぬいぐるみを抱きしめ、果物のキャンディーを噛みしめながら、非常に満足げな表情を浮かべていた。

この馴れ馴れしい様子、まるでここに初めて来たわけではないかのようだった。

涼介は立ち上がり、彼女に歩み寄った。「名前は?」

「あかりお姫様っていうの!」

「今年で何歳?」

小さな女の子は顔を上げ、にっこりと笑いながら五本の指を広げて見せた。「6歳だよ!」

涼介の心臓が強く打った。

6歳!

もしあの時、紗月が死んでいなかったら、彼女との子供はちょうど6歳になった!

まさか、6年前の事故で紗月は死んでいなかったのか!?

彼の目に一瞬、激しい動揺が走った。

あの時、彼は何度も調査を命じ、海でも1か月間捜索を続けたが、紗月の遺体は見つからなかった。

そして今、目の前には自分と血縁関係のある子供がいて、ちょうど6歳だった。

ということは、紗月は本当に生き延び、どこか見つからない場所でこの子を産んだのかもしれない?

そう考えると、彼は少し興奮し、「それで、君のお母さんは?」と尋ねた。

「ママは......」

あかりは何か言おうとしたが、突然、兄の忠告を思い出し、慌てて言葉を変えた。「知らない!」

涼介はしゃがんで彼女と目線を合わせ、できるだけ優しい声で言った。「嘘をつくのは良くない子だぞ」

小さなあかりはぱちぱちと目を瞬かせ、「誰かが言ってたんだよ、嘘をつくのは遺伝だって。パパは良い子なの?」

涼介の顔が一瞬で青ざめた。「誰がそんなことを言った?」

あかりは唇を尖らせ、「パパは嘘をついたことあるの?」

涼介は言葉を失った。

自分のボスが6歳の女の子に問い詰められて言葉を失っている姿を見て、白石は笑いたくても笑えず、苦しそうにしていた。

涼介は彼を一瞥し、「監視カメラの映像に何か進展は?」と問いかけた。

「はい」

白石は深呼吸をして、「今朝、会社の近くにある監視システムが不明なハッカーによって攻撃され、すべてのカメラが故障しました......」

涼介は眉をひそめ、目の前の小さなお姫様を見つめると、心の中に不安がよぎった。

ハッカーによる監視カメラの攻撃とこの子の出現が、偶然であるはずがない。

あかりは涼介の疑いの目に耐えられなかったのか、唇を尖らせ、ぬいぐるみをソファに置くと、白い顔を上げて言った。「パパ、お風呂に入りたい!」

朝からお風呂に?

涼介は真剣な表情を引き締め、淡々と白石に向かって指示を出した。「白石、お嬢様を別荘に連れて行って、使用人にお風呂を用意させて」

「あかりお姫様だよ、ただのお嬢様じゃないの!」

あかりは唇を尖らせ、幼いながらもはっきりとした口調で言った。「好きじゃない人にお風呂を手伝ってほしくない!」

突然現れたこの娘に、涼介はどう対応していいのか戸惑っていた。彼はあかりを見つめながら、できるだけ優しい声で「じゃあ、どうしたい?」

「好きな人を選んで、お風呂に入れてもらう!」

あかりは唇を尖らせたまま、扉の外へ向かって歩き出した。「白石、お家に送って!」

「佐藤さん、これは......」

涼介は淡々と手を振り、「彼女の言う通りにしろ」と指示を出した。

白石は仕方なく後を追い、慎重にその尊い身分の小さなお姫様を守りながら歩いていった。

半時間後、白石から電話がかかってきた。「佐藤さん、お姫様は別荘のすべての使用人に満足していないようです......」

近くの監視カメラを確認していた涼介は少し苛立ちを見せた。「新しい使用人を雇って、彼女が納得するまで自分で選ばせろ」

白石「......」

「わかりました」

白石は5年以上も涼介のそばに仕えてきたが、彼が婚約者の桜井理恵に対しても、常に冷淡な態度をとっていたのを知っている。

しかし、今この小さなお姫様には、まるで彼女の言うことには一切逆らわないかのようだ......

前世の恋人とはこうも違うものか!

*

紗月はやっとの思いで、重たい大きな段ボールをいくつか部屋に運び入れた。

彼女はソファに倒れ込むように座り、隣の小部屋に向かって怒鳴った。「桜井透也!海外から何を送り返してきたの!」

ふわふわとした小さな頭が慎重に部屋の隅から顔を出した。「ママのデザインのスケッチを全部送り返したんだ」

紗月は一瞬驚いた。「なんでそんなものを送ったの?」

彼女は海外でのすべての栄光を捨て、桐島市で新たなスタートを切る決心をしたのだから。

「もしかしたら、後で必要になるかもしれないから!」

透也は一瞬だけ目を輝かせ、そしてにっこりと笑って部屋から出てきた。「ママにピッタリの仕事を見つけて、履歴書を送っておいたよ。たぶん、すぐに面接の連絡が来ると思うよ」

紗月は眉をひそめ、何か言おうとした瞬間、スマートフォンが鳴り始めた。

「紗月さんですか?お姫様があなたを選びましたので、すぐに青湾別荘に来てください」

彼女の体が一瞬で硬直した。

青湾別荘?

「それって......涼介が住んでいる青湾別荘ですか?」

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