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腹黒い三つ子:クズ夫の妻取り戻し大作戦
腹黒い三つ子:クズ夫の妻取り戻し大作戦
著者: 墨染 雪

第001話

桜井紗月は妊娠していた。

彼女は検査結果を握りしめ、喜びに満ちた気持ちで家に帰る途中、どうやって夫の佐藤涼介にこの驚きを伝えようかと考えていた。

彼は約半月の出張を終え、明日には帰ってくる予定だった。

家に着き、玄関のドアを開けると、彼女のものではない女性用の靴が目に入った。

紗月は眉をひそめた。

この靴、見覚えがある。数日前に妹の桜井理恵が買ったものだった。

だが、理恵は確か涼介と一緒に出張に行っていたんじゃないの

突然、2階から女性の声が聞こえてきた。

この声......

妹の桜井理恵の声だった!

紗月は唇を強く噛みしめ、体が激しく揺れた。

男性の声も聞こえてきた。それは自分の夫、涼介以外に誰がいるのだろうか?

彼女は無意識に足を動かし、階段を上がり始めた。

部屋に近づくにつれて、男女の声はますますはっきりと聞こえてきた。

「姉さんが戻ってきたらどうするの?」

理恵の甘美な声とは対照的に、涼介の声は冷たく低かった。「どうでもいい」

「姉さんはずっと佐藤さんの子供が欲しいって言ってたけど、結局先に妊娠したのは私。どう説明するつもり?」

彼の声はまだ冷たく響き渡った。「どうでもいい」

桜井紗月の心は一瞬にして凍りついた。

しばらくして、彼女はドアノブから手を引いた。その後、背を向けて部屋を去った。

結局、その中の光景を直視する勇気がなかった。

ドアを開けても、何も変わらない。

涼介が紗月を愛していないということは、誰もが知っていた。

それでも、彼女はすべてを犠牲にして彼と結婚する道を選んだ。

結婚して2年、涼介の子供を授かるために、数多くの病院を訪れ、さまざまな民間療法を試してきた。

やっとのことで彼の子供を身ごもった。だが、彼は紗月とのベッドで、紗月の異母妹と関係を持っていた。

しかも、理恵も妊娠していたなんて。

涙が静かに紗月の頬を伝わり、彼女は疲労しきって別荘を出た。外はもう雨が降り始めていた。

彼女は絶望の中、大雨の中を歩き、頭の中には桜井理恵と涼介の声が交錯していた。

涼介が理恵をアシスタントにする理由がやっとわかった。彼がいつも出張に連れていく理由も。

彼らはずっと以前から関係を持っていたのだ......

別荘の寝室の窓から、整った服装の理恵が紗月の背中を冷笑しながら見つめていた。

紗月が聞いた男性の声は、編集されたものであった。

涼介の声は録音だったのだ。

理恵は姉がドアを開ける勇気がないことを見越していたのだ。

「私の妻は紗月だ。自重してくれ」

「数年は離婚するつもりはない」

耳に残るのは、彼女が拒否された時の涼介の冷たい言葉だった。

理恵は冷たく笑いながら、携帯を取り出して番号を押した。

*

紗月は激しい雨の中、知らず知らずのうちに海峡大橋まで歩いてきていた。

どんよりとした天気で、橋の上を走る車はごくわずかしか見当たらなかった。

突然、猛スピードで彼女に向かってくる大型トラックが現れた!

心が折れた彼女には、よける力すら残っていなかった。

「バン!」と轟く音とともに、

紗月はトラックにはね飛ばされ、身体が宙に舞い、海峡大橋の端に重く落下した。

内臓がぐちゃぐちゃになったように感じ、頭からは鮮血が流れ出し、視界は赤く染まっていった。

朦朧とした意識の中、誰かが車から降りてきて、彼女の息を確認した。

彼女がまだ死んでいないことを確認すると、その男は電話をかけた。「佐藤さん、死んでませんが、もう一度やりますか?」

紗月の心はトラックに踏みつけられたように痛んだ。

その男が「佐藤さん」と呼んだ。

紗月がこの世で唯一知っている「佐藤さん」は、涼介だけだった。

かつて最も愛し、すべての美と感情を捧げた男、佐藤涼介。

彼が理恵との関係を知ってしまったために、彼女を殺そうとしているのか?

それとも......

理恵のお腹の中にいる子供に正式な立場を与えるため?

でも、彼女のお腹にも彼の子供がいるのに......

「俺を恨むなよ。あなたが愛した相手が間違っていたんだ」

その運転手は電話を切り、革靴で彼女の身体を激しく蹴り始めた。

紗月が落ちた場所は、橋の端からわずか2メートルほどだった。

運転手は力の強い成人男性で、紗月の傷ついた体を何度も蹴った。数歩で、彼女の体は橋の外へと押し出されていった。

「また来世で会おう」

桜井紗月は橋から落ちていった。

意識が遠のく中、彼女はかつて桜の木の下で見た佐藤涼介の姿を思い出していた。

彼はまだあの白い服を着た少年で、上品で穏やかだった。

「佐藤涼介、お前を憎んでいる......」

*

大阪。

深い知性と冷酷な魅力を併せ持つ長身の男性が会議室から歩み出た。側にいた秘書が慌てて近寄り、「奥様が事故に遭われました」と告げた。

男性は少し眉をひそめながらも進む足を止めず、「今度は何をしでかしたんだ?」

「奥様は......トラックに轢かれ、海に落ちました。遺体が見つかっていません」

男性の瞳孔が一瞬にして収縮した。

その折、携帯電話が鳴り響いた。病院からの電話だった。

「佐藤さん、奥様からは内緒にするようにと言われましたが、やはりお知らせすべきかと思いまして」

「奥様は妊娠しています。もう3か月を過ぎています......」

——————

六年後。

ヨーロッパからの国際便が東京成田空港に到着した。

紗月はキャリーケースを引きながら、入国審査の出口を出てきた。

六年前、彼女の名前は桜井紗月だったが、一度死んだも同然の出来事の後、姓を捨てて「紗月」として新しい人生を歩み始めた。

彼女の栗色の長髪は無造作に肩にかかり、赤いシャツに黒いコートをまとった姿は冷たくも神秘的な印象を与えていた。

その後ろには、同じ黒いコートを着て、同じキャリーケースを引いている二人の子供、男の子と女の子が続いていた。

彼らはまだ5、6歳ほどに見えるが、冷たい貴族のような雰囲気を漂わせ、近づきがたいオーラを放っていた。

「紗月!」

出口で待っていた中川杏奈が手を振りながら声をかけてきた。「こっちよ!」

中川杏奈は東京でも有名な美容外科医で、5年前にヨーロッパ留学中に紗月の整形手術に携わったことがきっかけで親友となった。

今回、紗月が東京に戻ってくるということで、彼女はホスト役を買って出たのだ。

紗月に近づき、興奮しながら彼女のキャリーケースを奪い取るようにして持ち上げた。「家はもう用意しておいたから、早速向かいましょう!」

「ありがとう」

紗月は淡々と微笑み、子供たちに紹介した。「透也、あかり、こちらは中川おばさんよ」

「はじめまして!中川おばさん、これからよろしくお願いしますね!」

小さなあかりは甘い声でそう言いながら、中川杏奈に飛びつくようにキスを飛ばした。

透也は中川杏奈を軽く見て、淡々と一言。「中川おばさんって、まだ彼氏いないんでしょ?」

杏奈は一瞬間を置いてから返答した。「なんでそれが分かるの?」

透也は少し口を尖らせ、杏奈からキャリーケースを奪い返すと、二つのキャリーケースを軽々と引きながら前に進んだ。「女の人が力仕事ばかりしてたら、結婚できなくなっちゃうよ」

杏奈は唖然として言葉を失った。

この子、ほんとに!

紗月は息子の話をスムーズにするのを手伝うしかなかった。「彼、口はちょっときついけど、実際は優しいのよ。中川さんが疲れないか心配してるだけだから」

「そう、まあ、それなら許すわ」と、杏奈は不満げに唇を尖らせた。

そして、杏奈は紗月の腕に絡ませながら、「でも、どうして急に戻ってくることにしたの?それに、透也とあかりは一緒だけど、響也はどうしたの?」と尋ねた。

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