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義姉との108回目の逃走
義姉との108回目の逃走
著者: 月野雫

第1話

耳を塞いでベッドの上で丸くなっていた。

どれだけ押さえても、鋭く痛ましい叫び声が厚い土壁を越えて私の心臓に突き刺さってくる。

しばらくして、ようやく。

母屋からの物音が次第に静まっていった。

夜の静寂がまた戻ってくる。

その時私の部屋のドアがそっと開いた。

耳元にふらつく足音が響く。

目を開けるとそこには義姉がいた。

髪は乱れ頬は赤く腫れていて、目には光がなく、彼女は震える手で胸元の服を強く押さえていた。指先が力みすぎて真っ白になっている。

体が小さく震えながら、慣れた様子で私の布団に潜り込む。

私は慣れた手つきで彼女の服を脱がせる。

胸には無数の生々しい歯型があり、ところどころ血が滲んでいた。背中には青あざと掴まれた痕が広がっていて、今夜も新たな痕がいくつも増えている。

彼女の細い腰には、まだ鮮明に残っている靴べらの痕があった。

私は心を痛めながら薬酒を手に取り、慎重に彼女の体に塗り始めた。

彼女の体がびくっと反応し、下唇を強く噛んで額には細かい汗が浮かび上がった。

私はそんな彼女を見つめ、心配そうに声をかけた。「お姉さん、痛いなら我慢せずに、声に出してもいいんだよ」

彼女は微かに首を振りかすれた声で言った。

「大丈夫、今日はまだ、うまくいかなかったから」

私の胸は締め付けられるような思いだった。

「お姉さん、私たちはずっと、こうやって生きていくしかないのかな?」

彼女はしっかりと私の目を見つめ、力強く答えた。

「佐藤桃璃、あなたは何としてでも、この場所から出て行かないといけない。外に出れば、勉強もできるし、仕事もできる。やりたいことは、何でもできるんだよ」

私は彼女を不思議そうに見つめながら、質問した。

「でも、私は男の子を産まなきゃいけないんじゃないの?」

彼女は苦笑しながら、私の頭を優しく撫でた。

「出産はあなたの権利であって、義務ではないのよ。産みたいと思えば産めばいいし、産みたくなければ、産まなくてもいいの」

「お姉さんは、家に帰りたい?」

彼女の目が一瞬で赤くなり、言葉を飲み込み、しばらくの間沈黙が続いた。

そして深い息を吐きながら、私を抱き寄せ、優しく背中を撫でた。それはまるで子供をあやすようだった。

「桃璃、もう寝ましょう。明日も早く起きて、薪を割らなきゃいけないからね」

冷たい月の光が紙でできた窓を通り抜け、彼女の顔に降り注いでいた。

まだ彼女は22歳のはずなのに、その目元にはもう細かな皺が刻まれていた。

彼女の顔には、疲れと歳月が刻まれている。

だけど最初に彼女と出会った時はこんな姿じゃなかった。

彼女の本名は、田中楓珠。

もともとは、どこかの家庭で大切に育てられた、かけがえのない存在だったはずだ。

4年前、彼女は希望に満ちた目をして、この村に教育支援のためにやってきた。

その頃の彼女の瞳には輝きがあり、全身から青春と元気が溢れていた。

私はそんな彼女が、本当に大好きだった。

彼女は私に「一生懸命勉強すれば、大きな世界に触れられるんだよ」と教えてくれた。

「女の人だって、半分の空を支えられる。男に頼らなくても、しっかり生きていけるんだよ」って。

だけど、今の彼女の目にはもう、あの輝きは見えない。

この村に支援に来た学生はたくさんいたけど、外に出られた人は一人もいなかった。

私の父は、村長から三万円で楓珠を買い取った。

それから彼女は、私のバカな兄の妻になった。

彼女は逃げようとしなかったわけじゃない。

10回も逃げ出したけど、そのたびに捕まって戻されてしまった。

彼女と一緒にいた他の大学生たちは、みんな狂ってしまったか、命を落とした。

彼女だけは母が命懸けで守り抜いたんだ。

けれどそんな彼女も、あっという間に運命を受け入れた。

わずか3年で兄との間に3人の子供を産んだ。

生まれた2人の女の子は、すぐにどこかに連れて行かれてしまった。

残された1人の男の子だけは、まるで宝物のように大事に育てられた。

だけど、運命は残酷だった。

先月、兄がその男の子を連れて川へ魚を捕まえに行ったとき、不幸にも二人とも川に落ちて溺れて亡くなったんだ。

我が家は三代続く一人息子だ。この血筋が途絶えてはならないと父は言った。

だから、父がその責務を負うことになった。

でも、義姉は死んでも応じなかった。

毎晩のように、彼女は体中傷だらけになるまで打たれ続けた。

私は心の中で、もし私が男の子だったら、こんなことにはならなかったのにと思った。

こうすれば、家の血筋も途絶えない。

そうすれば、義姉はもう無理やり子供を産まされることもなくなる。

それに、もし私がもう少し大きくなれば、義姉を逃がしてあげられるかもしれない。

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