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第8話

宅配員は兄にノートサイズの箱を差し出しながら、「お届け物です。サインをお願いします」と言った。

「明日香、これ何か買ったのか?」

兄はサインをして荷物を受け取り、家の中に戻った。

明日香は一瞬疑問が浮かんだような表情を見せたが、すぐに笑顔で「違うよ。最近、奨学金でお兄ちゃんに何かプレゼントしようと思ってたけど、まだ決められてなくて」と答えた。

「そんな少しのお金、自分のために使いなさい。将来の嫁入り道具にでもしてさ。俺なんかに使うことないんだよ」

兄は送り主の名前に気づいた。

それは、私だった。

兄の顔が一気に曇り、すぐさまドアを開けて荷物を外に放り出した。

その光景を見ていた私は、心が千本の針で刺されるように痛んだ。

やっぱり、死んでしまった方がいいのかもしれない......

兄が再びテーブルに戻ると、明日香が不思議そうに「なんで捨てたの、お兄ちゃん?」と尋ねた。

「あんなゴミみたいな荷物、詐欺だよ」兄はすぐに表情を和らげて、「それよりさ、もうすぐ卒業試験だろ?準備はどうだ?」と話題を変えた。

明日香は少しぎこちなく笑って、「まあ……ぼちぼちかな」と答えた。

実際、彼女は十分すぎるくらい準備していた。私をどう痛めつけるかを計画するために、学校に一ヶ月も前もって休みを取っていたのだから。

「うちの明日香はいつも優秀だから、大丈夫だよ」と、スープを飲みながら兄は満足げに頷いた。「卒業したら、どこで働きたいか決めてるのか?」

期待に満ちた兄の視線を受け、明日香は乾いた笑いを浮かべ、「私......」と言いかけた。

「いいよ、卒業してから考えたってさ」兄は優しい笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でた。すると、明日香は突然兄の手首を握り、自分の頬に軽く当てて、顔を上げてきっぱりと言った。

「私はお兄ちゃんと一緒にいたい」

兄は少し驚いたように見えたが、すぐに、さらに温かい笑みを浮かべた。

「法医学者になるのも悪くないな。生きてる人には真実を、亡くなった人には正義を届ける。明日香、お前がそんな志を持ってくれるのは、兄として本当に嬉しいよ」

その言葉は、私の胸に苦々しく突き刺さった。

兄さん、彼女が言う「一緒にいたい」がどういう意味なのか、全然分かっていないんだ……

プルルル……

突然、電話の音が鳴り、この温かい空気を打ち消した。

相手は
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