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第10話

空気が一瞬にして静まり返った。

「どうして......」と驚いた顔で振り返る兄。

「私じゃない、お兄ちゃん」明日香は涙を目にためて、力強く首を振った。「本当に、信じてほしい」

桜井警官は怒鳴り声を上げた。「証拠は揃っている!そんな演技はもう通じないぞ!」

それなのに、兄は明日香の無力そうな姿を見て、すぐに疑いを捨て、振り返ると彼女を抱きしめて慰めた。「信じてる、心配するな......」

「ブスッ」という音とともに、小サイズのメスが兄の胸を突き刺した。

「くそっ!」兄がぐらつくのを見て、桜井警官の顔色が変わり、急いで銃を抜いた。「明日香、動くな!」

兄は信じられない様子で、「な、なぜだ?」

「だって、愛してるからよ、お兄ちゃん」

明日香は素早く胸からメスを引き抜き、それを彼の首に当てながら、徐々に歪んだ悪意のある笑みを浮かべた。

「最初にあなたを好きになったのは私だったのに、まさか姉さんに先を越されるなんて!

しかも、あんな田舎臭い邪魔な妹までいるし!

でも、お兄ちゃんは私だけのものなのよ!

私たち二人だけの世界のために、もちろんあいつらを一人ずつ始末するしかなかったの!」

兄の顔は真っ青になり、目が虚ろになっていた。涙が止まらずこぼれ落ち、口を開けても声は一切出なかった。

そして、彼が明日香に掴まれたまま、キッチンに連れ込まれたことにも気づかなかった。

「明日香!逃げられないぞ!」

桜井警官が追いかけようとしたが、明日香はガスの栓をひねり、冷笑した。

「撃つなら撃ってみなさいよ!全員ここで死ぬんだから!」

「やめろ!」桜井警官は慌てて後退し、「何が欲しいんだ!」

「お兄ちゃんと一緒に死にたいのよ」

「本当はあと数日で心中するつもりだったけど、早まっても構わないわ」兄の頬にキスをし、明日香は邪悪で満足そうな目をして言った。「こうすれば、姉さんも早く現実を見るでしょうね。彼女は私には敵わないって!ハハハ!」

「お前こそが、最低の人間だ!」

桜井警官は怒りを込めて歯を食いしばり、容赦なく引き金を引いた。

ナイフが落ちた。

「な、そんなはずはない!」

明日香は慌ててガスコンロを点けようとしたが、火が出ないことに気づいた。

その瞬間、大勢の人々が押し寄せてきて、明日香を地面に押さえつける者や、兄を担ぎ上げる者が現れた。

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