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第3話

本当に、なんであの時、綾香が私をトイレに押し込んでドアをロックしたのか、未だによくわからない。何度試してもドアは開かなかった。

スマホも外に置きっぱなしで、あの時はどうしようもなかったんだ。

綾香の悲鳴は、今でも耳に残ってる。最後には泣き叫んで、助けを求めながら声がかすれるまで叫び続けて......そして、力尽きて気を失った。

次に目を覚ましたとき、警察から「ドアは内側からロックされていた」と聞かされて、兄にその場で締め殺されかけた。

今じゃ私は、もうすっかり焼け焦げてしまった。灰にはなっていないけど、もし身元が判明したら、お兄ちゃん、少しは喜んでくれるのかな?

でも今は、事件の解決が先だ。

桜井警官は深く息をついて「悪い、話が長くなったね。最近ずっと忙しいだろうから、早く帰って休んで」と言った。

兄は何も言わずに、階段を降りていった。

その時、また電話が鳴った。見知らぬ番号で、兄はいつもならすぐに切るんだけど、相手はしつこく何度もかけてきて、しばらくしてメッセージが届いた。

「こんにちは、こちら銀行です。桐生朱理様の住宅ローン返済が最終期限を過ぎております。

何度かご連絡、訪問をしましたが、ご本人にお会いできませんでした。

確認したところ、あなたが彼女のご兄弟であることがわかりましたので、ご連絡いたしました。これ以上遅延が続くと、信用情報に影響が出ます」

兄はそのメッセージを読み終えると、顔がみるみる険しくなり、怒り狂ったように電話をかけ直し、「聞け、俺はあの女とは何の関係もない!

あいつが金を返そうが返すまいが、俺には関係ないんだ!もう一度かけてきたら、ストーカーで訴えてやる!」と叫んだ。

その間、桜井警官はすでにオフィスに片足を踏み入れていたが、兄の声を聞いてまた戻ってきて、眉をひそめながら「朱理ちゃん、何の借金してるんだ?」と聞いた。

「俺には関係ない」兄は冷たく見返し、「桜井さん、焦げた遺体の事件を解決したいなら、黙ってろ」と言った。

桜井警官は再び眉をひそめたが、今度は深くため息をつき、オフィスに戻っていった。

その時、下の方から男の泣き声が聞こえてきた。

「お願いします、警察さん、妹がいなくなったんです!今朝、友達と買い物に行くって出かけたきり、まだ帰ってこなくて......電話もつながらないし、俺、妹しかいないんです!」

桜井警官はすぐに階段を駆け下り、兄も何か思い出したようにその後を追った。

「まずは落ち着いて、妹さんの写真を見せてください。できれば、歯が見えるような笑顔の写真がいいです」

桜井警官の言葉には明らかに意図があったが、男は気づかずに泣きながらスマホを操作し始めた。

「俺、両親は早くに亡くなって、妹が唯一の家族なんです。もし何かあったら、どうすればいいんだ......」

私は少し苦笑いしながら、男のスマホを覗いた。そこには、可愛らしい少女が兄に腕を回し、幸せそうにピースサインをしていた。

私にも、そんな時期があったのに......

桜井警官と兄は、驚いたように顔を見合わせ、しばらくしてから静かに話し始めた。

「今日、焼け焦げた遺体が運ばれてきたんだ。身元は不明だが、歯が......」

そう、その写真の少女の歯も一部欠けていた。

「俺の妹が......!」男はその話を聞くと、その場に崩れ落ち、地面にへたり込んで泣き叫んだ。「俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ!」

兄は眉をひそめ、顔を背けた。

私にはわかる。どんなに他の兄妹が仲良くても、それが兄にとっては、私をさらに嫌悪する理由になることを。

桜井警官はため息をついて、「ご愁傷様です。身元を完全に特定するために、妹さんのさらなる特徴が必要です」と言い、隣にいた警官に「記録を取れ」と指示した。

でも、兄は明らかにここにいたくなさそうだった。

けれど彼は法医であり、男の一言一言が事件解決の手がかりになるかもしれない。

だから聞かねばならない。そして、それを録音して何度も聞き直す。それが彼の「遺体に語らせる」やり方だ。

「俺の妹は......」男は絶望の表情で言葉を紡ぎかけたが、それ以上は続けられなかった。そんな時、男のスマホが鳴り響いた。

Comments (4)
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hikari
42908!!!!!
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sen.sera.mey
42908!!!!!
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Nicole
42908、、、、、
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