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第6話

桜井警官はスマホとMP3プレーヤーをすぐに兄に見せた。

だが、兄はそれを強く振り払うと、地面に叩きつけた。

「お前、俺が言ったことが全然わかってねえのか?何度も言っただろ、あいつがどうなろうと俺には関係ないって!今から義妹と映画に行く予定なんだよ。それ以上しつこくしたら......」

「桐生拓也!」

桜井警官は車から降りると、怒りを込めて兄のフルネームを叫んだ。

「綾香が亡くなって、お前がどれだけ苦しんでるか、俺もわかってる。でもな、今、朱理ちゃんが危険な状況にあるかもしれないんだ。彼女の安全を確かめるのは、俺たち警察の仕事だ。これは前とは別の話だろ? だけど、お前の今の姿を見てみろよ。冷静だった法医のお前はどこにいっちまったんだ?」

兄は冷たく笑った。

「冷静な奴に解決させればいいだろ。俺はもう辞めるよ」

兄はポケットから法医の証明書を取り出すと、それを桜井警官の足元に投げ捨てた。

「お前!」

桜井警官は彼の背中を指差し、目には失望の色が浮かんでいた。もう何を言っても、兄の気持ちは変えられないことがよくわかっていた。

「ごめん、桜井さん。全部、私のせいだ。君に迷惑をかけちゃって......」

私は後悔と罪悪感でいっぱいで、何もできなくなった。

だけど、桜井警官は私のことなんか気にしてなかったし、私の声も耳に入っていなかった。

私は、ただ兄の近くを漂うしかなかった。

兄は穏やかな声で電話をかけた。「待たせちゃったな、この食いしん坊め。すぐ帰るから」

その言葉に、また胸が締めつけられて、涙が出そうになった。

兄は昔から私のことを「妹」としか呼ばなかった。こんな親しげな言い方をされたことなんて一度もなかったのに。

「お兄ちゃん!」

その時、道の角から花柄のワンピースを着た女の子が、楽しそうに駆け寄ってきた。

「走るなって、転んだら危ないだろ」兄は手を振って彼女を迎え、急いで駆け寄った。「映画館で待ってろって言ったのに、なんでここまで来たんだよ。暗くて危ないだろ」

明日香は甘えた声で言った。「だって、迎えに来たかったんだもん」

「どうせ、いちごケーキが食べたかっただけだろ?」兄は彼女の鼻をつまんで、愛おしそうに言った。

明日香は笑いながら兄の腕に抱きついた。「ケーキ、買ってくれるんでしょ?」

「ああ、10個で足りるか?」

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