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第7話

「じゃじゃーん!お兄ちゃん、これ見て!」

明日香が小走りでキッチンに入ってきて、小さな鍋を手にしていた。

兄は何かを察した様子で、にっこりと「何それ? いい匂いだね」と尋ねた。

「私が作った漢方スープだよ!」明日香は蓋を取って、少し心配そうに続けた。「最近、ずっと残業続きでしょ? 体が心配だよ。ちゃんと栄養取らないと」

「ごめんな、明日香。最近はなかなか一緒に過ごせなくて......」

兄はスープを受け取ると、感謝の気持ちを込めて言った。

明日香は顎に両手を置いて、「大丈夫だよ、お兄ちゃん。早く飲んで」とせがんだ。

兄は頷いて、スープを飲もうとしたその時──

玄関のチャイムが鳴った。

明日香は少し眉をひそめた。

「買い物で疲れたでしょ? 座って休んでて、俺が出るよ」と言い、兄は碗を置いて玄関へ向かった。

「お邪魔しまーす、桐生さん!」

玄関の外には、タンクトップにハーフパンツ姿の男が、両手に鮮魚を二匹持ちながら立っていた。礼儀正しくニコニコ笑いながら話しかけてきた。「今日一日中朱理ちゃんを探してたんだけど、全然見つからなくて…桐生さん、彼女がよく行く場所とか、心当たりないか?」

それは前田だった。

LINEでブロックされたあと、まさか直接ここまで来るとは思わなかった。

「バカか」

兄は顔をしかめて、ドアを無言で閉めた。

しかし前田は諦めずにドアを叩き続けた。「お願い、桐生さん! 実は、俺、朱理ちゃんのことが好きなんだ!ずっと告白しようと思ってたんだけど、全然連絡が取れなくて、本当に心配なんだ!」

私は驚いて言葉を失った。まさか、行方不明の私を心配しているのが、血の繋がりのない人たちだなんて。

「何かあったら警察に相談しろ。お前があの冷血女を好きだろうと、俺には関係ない」兄はドア越しに冷たく言い放った。「これ以上帰らないなら、不法侵入で訴えるぞ」

「でも、お兄ちゃんも警察だよね?」

前田は肩を落とし、鮮魚を持ったままゆっくりと去っていった。

追いかけて「ごめんね、迷惑かけて」と言いたかった。でも、私には動ける体がない。

「朱理ちゃんに何かあったの?」明日香が心配そうに兄を見上げた。「お兄ちゃん、私のために大事なことを後回しにしないで」

「彼女には何も起きてないよ」兄はテーブルに戻り、穏やかに言った。

「でも、彼女も可哀
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