Share

第 0003 話

別居という言葉を聞いて、瀬川の心はちょっと酸っぱくなって、痛くなってきた。

結婚後、薄野が御汀別荘に戻るのは年に10回もなく、別居と同じくらいだった。

「とにかく、あと3ヶ月しかないから、一緒に暮らす必要はない」

薄野は数秒間彼女を見つめた。「必要であろうとなかろうと、俺次第だ。田中に2時間の休暇を承認してもらえてから、荷物を別荘に運べ」

「私は…」

断ろうとしたところ、田中がドアをノックした。「総裁、そろそろ会議始まります」

薄野は外したカフスボタンを元に戻しながら言った。「出ていけ」

瀬川は出ていない。もう一度言った。「私は戻らない」

「飽きらないか?毎回毎回そう言う」

これは初めての喧嘩じゃない。瀬川が引っ越したのも初めてではない。しかし毎回彼女はしばらくすると自分で戻ってきた。

今回、彼がそれを信じていないことを知っていたが、もう何も言いたくなかった。

オフィスから出てきた後、瀬川は洗面所で化粧をした。やはり、顎が腫れた。

化粧直しを終え、退職届を人事に持っていこうとすると、誰かが彼女を呼ぶ声がした。

「瀬川さん、プリンターのインクが切れたから、急いで交換してきなさい」

このような言いつけ、毎日耳にしてる。薄野の生活アシスタントとして、生活面だけでフォローすればいいのに、いつも総裁からいい顔されないからだんだん雑用係になってしまった。

「インク交換しなさいって」話をしてるのは秘書の代さんである。さっき瀬川の別れ話をあざけてた人だ。「離職つもりはあるけど、今はまだこの会社の社員でしょう。少なくとも自分の仕事をちゃんとしろよ」

「私の仕事は総裁のフォローで、そして総裁の食事です。あなたは総裁じゃないでしょう」

生活アシスタントの仕事内容がくだらないとはいえ、社内では彼女を羨んでる人結構いる。

例えばこの代さん。

代は驚いた顔をしてて、「頭おかしいじゃない?総裁の食事はあんたと関係ないでしょう。注文した料理、総裁は一度も食べなかったわ」

ゴミ箱に捨てられた料理を思い出すと、瀬川は心が痛んだ。

そして胸に突然の痛みが走った。代がそれらの資料を彼女の腕の中に放り込み、生意気な顔をしている。「14時前20冊プリントしてください。瀬川さん、自分の立場分かっているよね」

瀬川は眉をしかめた。背後で物音を聞いて振り返ると、薄野がオフィスから出ている。二人は目線を合した。

男はあざ笑って、こんなこともできないのに、彼と離婚したらどうするというような顔をしてる。

瀬川は怒った。薄野の前で、代秘書に書類を投げ返した。

秘書さんが反応する前に、資料がガチャガチャとあちこちに散らばれた。薄野は転身して離れた。

「代秘書、立場は重要なものだけど、人の話をよく聞くのも重要な品格だわ。インク交換のことも、プリントのこともいずれもしないよ。総裁の前に私を訴えれば?ついでに総裁は巨乳のバカ女が好きだが、残念なことに、君はバカ女だけ」

どうせ離職するから、恨みを買うのもどうでもいい。離職する前に気を晴らしてすっかりだ。

薄野の顔は一瞬にして真っ暗になった。

その後、瀬川は人事部に行き、離職届を提出した。人事部長はそれを見て、「瀬川さん、離職届、持ち帰ってください。総裁の生活アシスタンですから、総裁に署名してもらわないと、人事も同意できません。」

瀬川は直接に言った。「明日はもう会社に来ないから。好きにしろ。」

人事部長はあきれた。「それは契約違反ですよ。離職にしても、引継ぎとかをちゃんとしなさい。」

ただ総裁の食事を担当する仕事だ。引継ぎ必要あるの?

自分が注文した料理も食べないし、引継ぎしようとしても…

人事部長に反発する気もない。「じゃ総裁に訴えられるのを待ってるよ」

薄氏グループから出て、親友の中村悦織(なかむら えつしょく)からの電話に出た、一緒にバーに行こうって。多分今日のニュースを見たから、瀬川を慰めるためにバーに誘った。

ちょっと疲れてるから断った。ホテルに戻った後、夕食も食べずにそのまま寝てしまった。

ぐっすり眠っている中、ノックする声で目が覚めた。時計を見ると、7時50分。

ドアを開けると、目に入るのはホテルのマネージャーである。向こうは申し訳ないような顔をしてて、「瀬川様、お部屋にはちょっと故障が起きてて、点検する必要があります。」

「じゃ別の部屋を。」

そういって、部屋に戻って荷物を片付けようとしている。

なのに、マネージャーは、「申し訳ございません。空き部屋はありませんので、部屋代も返金しました。こちらが契約違反したので、違反金もカードに振り込みました。」

瀬川は足取りをとまった。薄野が8時まで別荘に戻ろうと言ってた。マネージャーが7時50に自分をホテルから追い出す。なるほどね。

「薄野の仕業か。絶対に戻らない。」

瀬川は怒った。

マネージャーも否定しない。「瀬川様、お願いします。こちらは小商売に過ぎません。」

3億ぐらいの小商売?

戻らないと言っても仕方ない。ホテルの方は空き部屋がないと言い張って、違反金も支払った。それに故障を修理しないと出火すると、点検員も待ってるし。

結局、瀬川はホテルを出た。薄野家の車はすでに待っていた。執事の入江さんが荷物の運びを手伝いしようとしている。「奥様、薄野様にお迎えに来させてきました。」

入江さんの手を避けて言った。「絶対に戻らないって薄野にお伝えください。」

瀬川は近くのホテルに行った。

入江さんは彼女を食い止めなかった。そうする理由はすぐに瀬川が分かった。

「申し訳ありません、このカードは使用できません。他のカードで使いますでしょうか?」ホテルのフロントはカードを返した。

Related chapters

Latest chapter

DMCA.com Protection Status