共有

第 0009 話

瀬川は薄野が来るのを待つのは絶対に不可能だ。でも男のスピードを見くびった。玄関まで歩いてきたところで、向こう側から歩み寄ってきた男の姿が見えた。

薄野はスリムなカットの黒いシャツにスーツのズボンをはいており、ハンサムな外見と高貴な気質で、高ぶっている。

顔がいいし、気性もいい、それに若くて金持ち......。

もし浮気しないと、薄野は間違いなくいい男だ。

傍に田中がついているが、彼の気迫は薄野のに比べ物にならない。

瀬川が呆然としている数秒の間に、薄野はすでに彼女の前に立った。彼は眉をひそめた。「江さんから聞いた。昨日は家に戻っていなかったって?」

これを聞くために来たのか?

「入江さんは伝えなかったのか? 昨夜だけでなく、これからも戻らないわ」瀬川は振り返り、反対側から歩こうとしたが、田中に呼び止められた。「瀬川さん、薄野様は瀬川さんがここにいたことを知ってるから、わざわざ上がってきました」

だから何? 薄野様に感謝しなきゃ?

田中は薄野の周りで、二人の本当の関係を知っている数人うちの一人だが、彼女をいつも「瀬川さん」しか呼ばない。

結婚して3年間、そして生活アシスタントとしての三年間、薄野はおろか、周りの人たちだって彼女を奥様として扱ったことはないし、建前さえもしなかった。

瀬川はかっとなった。田中に、「田中さん、君のような人は昔、何と呼ばれていたか知っていますか?」

走狗!

「瀬川!」薄野は叱った。「いい加減にしろ。家にある服やジュエリーを持ち去っていないし、俺からなだめることを望んでるだろう? 田中、レストラン予約して」

田中に言いつけた後、また瀬川に話した。「晩御飯は一緒に食べよう。数日後の宝飾展、好きなだけに選べばいい」

これは薄野の常套手段だ。瀬川と喧嘩した後、バッグや洋服、宝石など、お金で買えるものは何でも送る。昔は、女心を分からないって自分を慰めていたが。松本に対する扱い方を見た後ようやく分かった、この男はただ自分に感情とか持っていないんだ。

瀬川は皮肉な笑みを浮かべた。「あんなものはいらないわ。松本にあげようよ。どうせ私のいらない男ともうすぐ結婚するからね。結婚お祝いとしてあげよう」

傍らにいた佐藤が口を挟む。「奥さん、唯ちゃんに誤解しています。唯ちゃんは薄野様が好きですが、二人の婚姻を壊したいとは思っていません!唯ちゃんはこのブランドの会員ではないから、薄野様にこのバッグを注文するのを手伝ってくれるように頼みました。このバッグが気に入ったのなら、奥さんに譲ってもいいです。不倫っていう言葉で唯ちゃんを辱めるなんて必要はないでしょう?」

唯ちゃんが全く無実だと言いたいの?

このバッグについて話題をつづけたいなら…瀬川は笑いをを浮かべた。「いいよ、お言葉に甘えて」

中村は間違いなくこのバッグを気に入った。

それにお金を払う必要もないし。

薄野がどう思うか知るか。

瀬川がレジに向かうのを見て、薄野は彼女の手首を握りしめた。「これ以上もうやめよう、気に入ったら、もう一つ買ってあげよう。次のバッグが入荷するまで時間はあまりかからないから」

瀬川は目が酸っぱさを感じた。

この3年間の結婚生活、傷だらけの自分と寵愛を受けた松本…

薄野が言いたいのはよくわかった。このバッグは松本のものってこと。

彼女の顔は少し白かったが、それをばらせず、男性用バッグを指差し、ガイドに言った。「この男性用バッグ、買います」

薄野は、瀬川が怒らず、プレゼントも買ってくれたのを見て、数日間の憂鬱な気分は少し晴れた。

とはいっても、薄野はその男性用バッグが気に入らない。

薄野の声が優しくなった。「晩御飯が終わった後、中村のところに行って、荷物を家に運ぼう」

瀬川は彼を無視し、ガイドに尋ねた。「グリーティングカードを書いてもいいですか?」

ガイドはうなずいた。「いいです」

「喬さん、バレンタインデーおめでとうと書いて」。

薄野は愕然して、瀬川の手首をつかむ指に力が入った。

瀬川はぞんざいに返した。「今夜のデート相手だよ」

瀬川は手首を引き抜いた。「これ以上もうやめよう、気に入ったら、もう一人を呼んであげよう。次の人が到着するまで時間はあまりかからないから」

さっき言った言葉をそのまま言い返された。薄野の顔が暗くなった。

ガイドは領収書を書いたが、この状況では話す勇気もなかった。

瀬川はカードを取り出し、手渡した。「カードで支払う」

「瀬川、九万円の月給で、このバッグを買う余裕があるの?」

以前彼女に送った無制限のブラックカードを、彼はすでに凍結した。カードでホテル代を支払うまで、彼女はぞっとそのカードを使っていない。

九万円の月給で、たとえ一円も使わず、一年間でせいぜい100万円ぐらいためる。このバッグの半分でも買えない。

「チーン」 と音が鳴り、支払い成功した。ポスレジがレシートを印刷し始めた。

「瀬川は店員から手渡されたバッグを受け取り、振り返って立ち去った。

薄野は彼女の後ろ影を見つめ、目がかっと怒っていた。

ショッピングモールから出て、瀬川はもう買い物をする気がなかった。時間が早くないので、タクシーで中村の骨董品店に行った。

中村はちょうど暇で、彼女に出迎えた。「どうして来たの?今晩火鍋とか作ってくれるって言ったのに?」

瀬川は手に持っていたプレゼントを彼女に渡して、疲れてソファに座った。

中村はプレゼントを受け取り、目に驚きを浮かべた。「誕生日プレゼント?」

瀬川は目を閉じ、「うん」と答えた。

秦夕維は嬉しそうに包装を解いた。中に入っていた男性用のバッグを見ると、まるで青菜に塩のようになった。「私が女らしくないと思っても、そうする必要はないだろう」

「ボーイフレンドにあげたら?」

「......」。

ボーイフレンドなんかいないよ。ホストのケビン、アンディ、ジェフなら一応知っているけど。

しばらく休んだ後、瀬川はショッピングモールでの出来事を話した。

中村は、薄野が瀬川に戻ってほしいと聞いて、なんか妙に思ってる。しばらく沈黙したあと話した。「まさか薄野のやつ、あなたを好きになったのかな?」

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status