共有

第 0008 話

「降りろ!」

ここは幹線道路なので、タクシーをひろうのがとても便利だ。彼が松本に会うために病院に急いでいるのだと推測した。二人のろけるのを見るのはごめんだ。

ためらうことなく、頭を高く上げて車から出た。

車のけたたましい轟音とともに、舞い上がった砂埃が顔に直撃した。

瀬川は走っていった車に向かって叫んだ。「あの女は死んだから一秒も待ちきれないの」

その叫びに答えるのはただ静かだった。

その後、瀬川は道端に立ってタクシーをひろおうとしているが、黒いベントレーが彼女の前で止まった。

江さんは車から降りて、うやうやしく話した。「薄様からは、奥様を連れ戻すよう言いつけました」

瀬川は薄野が言いたいこと理解した。置き去りにしたが、その後のことは手配したってこと。

不満と思っても、自分の足を苦しめるわけがないから、車に直接乗った。もし離婚が公になったら、薄野のような顔立ちのいい人なら、きっと怒ってたまらないだろうと瀬川はそう思ってた。

しかしこんな時に彼を怒らせると、損するのは自分だけだ。

どうせ3か月しかないから、しばらく我慢しよう。

でも、今夜の出来事を通して一つのことが分かってきた。松本が帰国した以上、3カ月も待てないこと

……

翌日、薄野氏グループに行く必要がないから、朝遅くまでぐっすり寝てた。

中村はすでに店に行っており、SNSでメッセージを送った。「許さんのところに行く時間は明日の予定だが、客との約束があって同行できない」

大学卒業後、中村は家族の手伝いで骨董品店を開いた。文化財修復の仕事について、瀬川はいつも彼女を通して引き受けていた。

「分かった」とメッセージに答えて出かけた。

御汀別荘をを出て、まず落ち着く場所を見つけなければならない。。

瀬川はまず貸事務所に行き、1LDKの借家を午前中に決まった。この借家は仕事場に近く、家具が少ないため、セカンドベッドルームをワークスペースに改装することができる。

最も重要なことは、マンションの管理人が真面目だ。住民以外の人がマンションに入るには身分証明書を登録する必要がある。

契約書にサインした後、まだ時間が早いからショッピングモールに行った。もうすぐ中村の誕生日になるから、プレゼントとしてバッグを買ってあげようとしている。

あるブランドの今年の新作、中村がずっと欲しがった。このショッピングモールにはちょうどあのブランドを持っている。

瀬川はエレベーターで7階に行き、店員に声をかけられた。「お嬢さん、お好きなものはどちらですか?」

このような高級品を購入する人は、店に入る前にすでにスタイルを決めたからだ。

「今夏新作のバッグは在庫あります?」

店員は申し訳なさそうな笑みを浮かべた。「申し訳ありませんが、そのバッグは限定で、当店ではすでに発注済みです」

瀬川は少しがっかりした。「わかりました、ありがとう」

店から出ようとしているところ、職業服を着たエリート女性が外から入ってきて、ショッピングガイドに「薄さんが数日前に注文した限定版バッグを受け取りに来ました」と話した。

瀬川は立ち止まり、ゆっくりと指を握りしめた。

薄はよく耳にする苗字じゃないし、それに目の前の女性を知っている。

松本のマネージャ。以前にもニュースに出たことがある。

ショッピングガイドは、「わかりましたが、確認のため薄さんに電話する必要があります。お名前と身元をご提供いただけますでしょうか」と答えた。

「松本から、取りに来てほしいと頼まれました。簡さんのマネージャです。佐藤清宜(さとう せいぎ)と申します」

ショッピングガイドはコンピューターで薄野の連絡先を調べた。

瀬川はここに引き続きとまるつもりはない。さっきあの女の身分を分かった瞬間に、確かに心が痛くなったが、今はもう何も感じなかった。どうせ離婚するから、薄野が何をしても自分と関係ないんだ。

離れるつもりだったが、佐藤に声をかけられた。「瀬川さん」

瀬川は相手が自分のことを知っているとは思わなかったから、ちょっと驚いた。「どうしたんです?」

佐藤は率直に話した。「瀬川さんは若くてきれいなのに、どうして自分を愛していない男にこだわっているののですか?早めに別れて、もっと良い人を見つけたらどうですか?」

「これは松本さんが私に話したい言葉でしょう?」 瀬川は傲慢に顎を上げた。「世の中は本当に変わったね。不倫者が妻の前に大いにわめくってことは、昔なら想像もできなかったね」

こう言ったときの彼女の勢いは、相手を完全に圧倒した。

佐藤も弱みを見せたくない。「愛されない方が不倫者だわ。唯ちゃんと薄野様はもともとカップルなんだ」

「マネージャーは未婚ですよね?」 瀬川は目を細めた。「度量が大きいですね。佐藤さんが結婚したら、旦那さんにいくつかの女を紹介してあげようか?」

佐藤は愕然とした。彼女が反撃する前瀬川はまた話した。「あのバッグについては、松本さんに伝えて。バック代半分を私の口座に振り込んでください。あれは薄野さんからの贈り物ですが、私たちまだ離婚していませんから、夫婦の共有財産です。三日後まだ振り込んでいないなら、訴えます」

佐藤は、この一見無口な女性が、これほど口がうまいなんて思わなかった。

しばらくの間、いつも利口な彼女も沈黙した。

瀬川は立ち去ろうとしたが、後ろにいたショッピングガイドが震え声で彼女を呼び止めた。「奥様、薄野様からの伝言がありました。ここで待ってるって」

ショッピングガイドは、電話をかける前は、こんなに怖いことにあったとは予想していなかった。薄野様のアシスタントの電話にかけたのに、出たのは薄野様本人だった!

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status