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第0048話

やはり、蛍が裏で手を回していたからこそ、瑠璃は「スムーズに」入社できたのだ。

だが、瑠璃は決して馬鹿ではない。蛍が善意で動くわけがないのだ。

「偽善者ぶるのはやめて。気持ち悪い」瑠璃は蛍が差し出してきた手を嫌悪感を込めて振り払った。

蛍はわざとバランスを崩して、夏美に寄りかかった。

「四宮瑠璃、こんなことを言うのもあれだけど、蛍がお願いしてくれたからこそ、私があんたみたいな人を会社に入れることを許したんだからね!」夏美は、怒りながらも娘の蛍を守るように、瑠璃の前に立ちふさがった。

「蛍はあなたの本当の姉じゃないし、彼女を何度も傷つけた。それでも蛍は気にせず、あなたのためにいろいろと考えてくれたのに、感謝もしないで、恩を仇で返すなんて!」

また「恩を仇で返す」。

瑠璃は、この言葉の意味が完全に覆されるほど、これを何度も聞かされることになるとは思ってもみなかった。

本当に蛍が何か恩を与えてくれたのかと疑問に思った。彼女に与えられたのは、傷だけだった。

夏美が蛍を守りながら瑠璃を叱責する姿に、瑠璃は胸が締め付けられた。

「お母さん、もうやめて。私はもういいの、瑠璃を許してあげるわ。この子は幼い頃から両親がいなかったから、価値観が少し歪んでしまってるのよ。だから、責めないで」蛍は優しげに見せながらそう言った。

瑠璃は呆れて目をぐるりとさせ、「気持ち悪い」と吐き捨てた。

夏美の顔が険しくなり、何かを言おうとしたが、蛍がすぐに遮った。

「瑠璃、私を罵ってもいいわ。それで少しでも楽になるなら。あなたが刑務所でどれだけ辛かったか、理解してるから」蛍はそう言いながら、他の社員たちに向かって微笑んだ。「確かに彼女は過ちを犯したけど、人は誰でも間違いを犯すわ。そして、瑠璃はその罪をしっかり償ったの。だから、彼女を偏見の目で見ないでほしいの。みんな、お願いね」

蛍の言葉が終わると、社員たちはその寛大さに感心し、夏美も娘を誇らしげに見つめた。

「立派な女性ね」という称賛の声も聞こえた。

だが、瑠璃は吐き気を覚えた。

この会社の社員たちは、これまで瑠璃の過去を知らなかった。しかし、蛍がわざわざそれを明らかにしたことで、彼女の過去は卑劣で恥ずべきものとして広まった。

「刑務所帰りだったのか」という驚きの声が聞こえ始めた。

「刑務所に入ってたなら、いい人じゃな
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