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第77話

雅彦はすぐに立ち上がり、「彼女がどうした?」と尋ねた。

「日向さんが路上で強盗に遭い、遠くまで引きずられました。現在、胎児が危険な状態にあり、手術には家族の署名が必要です!」

雅彦の顔色は一気に暗くなった。

桃の状況を知った雅彦は、月と食事をしたくなくなって、すぐに立ち去ろうとした。

月はそれを見て、慌てて彼を止めようとした。「雅彦、どうしたの?誰かが怪我したの?私も一緒に行くわ。」

雅彦は月にこれ以上説明する気力もなく、彼女の手を少し荒っぽく引き離した。「君は気にしなくていい。家で休んでいてくれ。行ってくる。」

そう言うと、雅彦はすぐに部屋を出た。月が追いかけたとき、彼の車はすでに見えなくなっていた。

月は準備したキャンドルディナーが無駄になったことに腹を立て、足を強く踏み鳴らした。

しかし、ワインを注いでいたとき、月はぼんやりと日向という名前を聞いたような気がした。

「日向」とは…月は不安になった。

もしかして、あの負傷した日向さんというのは桃のこと?

月はあり得ないと自分に言い聞かせたが、不安が消えなかった。

少し迷って、月は桃に電話をかけてみることにした。

電話は長い間鳴り続け、月が切ろうとした瞬間、誰かが電話に出た。「あなたは日向さんの家族ですか?早く署名しに来てください。こちらは非常に緊急です!」

月は頭が一瞬混乱したが、必死に冷静になって、「桃はどこの病院にいるのですか?すぐに行きます。」と答えた。

医者は少し驚いた。先ほど連絡したのは男性だったが、今度は女性が出てきた。しかし、彼は忙しくて深く考える余裕もなく、場所を伝えて電話を切った。

月も急いでタクシーに乗り込み、桃の運ばれた病院へ向かった。

タクシーに乗る月の顔色はひどく悪かった。

もしその女性が本当に桃なら、どうすればいいのだろう?

月は、自分が手配した人間がきちんと任務を果たし、桃の腹の中の胎児を一度で取り除いてくれることを期待するしかなかった。できれば桃も一緒に亡くなってくれればいいのに。

月はそうに考えて、顔が怖くなった。運転手は彼女の表情を見て怯え、車を病院の入口に止めると、速やかに走り去った。

月はそれに気づかず、病院の駐車場を一巡りした。

すぐに雅彦の車を見つけた。

月は怒りでバッグを強く握りしめ、最悪の事態が現実になったことを悟った。
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