第81話

　 桃の話を聞いて、雅彦は顔が冷たくなった。昨日のひったくりが見つかった時には既に死んでしまった。亡命の途中でスピードが速すぎて、通りかかった大型トラックにひかれてその場で亡くなってしまった。

　「昨日のことはただの強盗事故だ。もし不安に思うなら、ボディーガードを２人手配しよう」

　彼の話を聞いて、桃はスマホをギュッと握りしめた。これがただの偶然ではなかった。そう思った彼女は一度怖い目に遭ったことから、今ちょっとしたことにもおびえるようになった。これから何が起こるか、彼女はその不安に駆られていた。

　このままいくと、彼女はきっと精神的には狂ってしまうのだ。

　「雅彦様、私があなたに嫌われているのは分かっています。だから、私が死んでも生きていても、あなたには関係ないでしょう。どうか行かせてください！」

　彼女の生死は自分に関係ないって？

　彼女の話を聞いて、雅彦は顔が曇ってきた。もし彼女のことを本当に気にしていないなら、清墨のお母さんに手術を行うように頼まなかっただろう。だが、詳しく説明したくない雅彦は「この件についてはこの前もう話した。このまま簡単に菊池家を離れることはない」と冷たい口調で言った。

　言い終わると、雅彦は直接電話を切った。彼の話を聞いた桃は一瞬で無力感に包まれてしまった。彼女は怒りに満ちた気持ちでスマホをベッドに投げつけた。

　なぜ自分を行かせてくれないのか桃は本当に理解できなかった。もしかして、彼は変態で、ビビっている自分を見るのが好きなのか？

　悩んでいる桃は心の中で雅彦がまったくの狂人だと罵り続け、美乃梨が朝食を持ってきた。

　桃の不自然な表情を見て、梨はすぐに心配になった。「桃、どうした？ 顔色が悪そうだけど、お腹でも痛いの？」

　梨の話を聞いて、桃は横に首を振りながら、「大丈夫。雅彦がまた離婚のことを拒否したから」と言った。

　梨は眉をひそめた。桃のお腹の子は雅彦のではないし、彼がその子を認めるはずもなかった。なのに、なぜ雅彦はなかなか離婚を認めてくれないのか梨はまったく理解できなかった。

　重苦しい雰囲気を和らげようとした梨はすぐに話題を変えた。「桃、今そんなことは考えないで、何か食べようか」

　「私…」

　さっきの雅彦との電話で、桃はイライラして、今あまり食欲が出なかった。

　「食べなくても、お腹の子のた