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第54話

 しかし彼女はすぐに自分を落ち着かせた。佐和は学校で貧乏で、彼女と同じく、学費や生活費を稼ぐためにアルバイトをしなければならなかった。もしそれが菊池家の人だったら、金持ちの御曹司として生まれ、そんな苦労をするはずがない。

 そう考えると、桃は安心した。きっと最近の緊張続きで神経質になっていただけだ。

 あの人はただ名前が同じなだけだ、と自分に言い聞かせた。

 ……

 一方。

 佐和は正成がまた小細工を始めたことを知って、無力なため息をついた。「おじさん、またこんなことが起きて、本当に申し訳ないです。」

 雅彦は正成や麗子にはあまり良い印象がなかったが、佐和には決して怒ることはなかった。「この件はお前には関係ない。お前のせいにするつもりはない。」

 「聞いたところによると、新婚さんのおばさんが気づいたそうだね。どうやらじいちゃんが用意した結婚は、結果オーライだったみたいだね。」

 佐和は、まだ会ったことのない叔母に対して、ますます興味を持った。

 もともと雅彦の性格を考えると、彼女はすぐに耐えられなくなって菊池家を出て行くだろうと思っていた。

 だが、彼女は耐え抜いただけでなく、雅彦のそばに留まり、彼の良き助け手になっている。

 雅彦は軽く笑って、その話題には触れなかった。「その話はやめよう。いつ帰国する予定なんだ?帰ってきたら、迎えに行くよ。」

 「そろそろ帰れるはずだ。」

 佐和が帰国の話をすると、気分も高揚してきた。

 最近、彼は仕事に熱心に取り組んでおり、その成果も上々だ。もしかすると、予定より早く、ロス医師を連れて帰国できるかもしれない。

 その時には、桃の母親の手術をすぐに手配し、そして彼女にプロポーズするつもりだった。

 「向こうでは気をつけて。帰る時は連絡してくれ。プライベートジェットを手配するから。」

 雅彦はそう言って電話を切った。

 佐和は、雅彦との間に不和が生じなかったことで安心した。

 彼は首から紐で下げていたネックレスを外した。ネックレスにはダイヤモンドの指輪が付いていて、それは彼が地元の住民を助けた時にもらったもので、とても大事にしていた。

 帰国したら、この指輪で桃にプロポーズするつもりだった。彼女の性格からして、自分がこの間にやってきた病気治療や人助けのことを知ったら、きっと喜んでくれるだろう。
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