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第61話

 雅彦は、車のハンドルを握る手をぎゅっと強めた。「どうした?誰かに見られたら、会社で男を引き寄せるのに影響するとでも?」

桃は雅彦の思考回路にはもう慣れたもので、少し呆れながら答えた。「あなたがいつも外で私たちの関係を話さないようにと念を押していたのではないですか?雅彦さん、一体いつも何を考えているんですか?そうでなければ、どうしてどんなことでもその方向に考えが及ぶのですか?」

雅彦はバックミラー越しで桃の膨れっ面を見た。普段の慎重な態度がなく、むしろ少し可愛らしく見えた。

珍しく、雅彦は彼女の無礼な口調に対して何も言わず、「ただ、外で浮気をしないようにと言っているだけだ」

桃はそのまま頭を窓の外に向けて、返事をしなかった。

彼女は、なぜ雅彦が永名に反論しなかったのかが分かった。彼が自分が外で働くことによってその間に浮気されるのではないかと心配して、24時間彼女を監視しているのだろうか?

ただ、彼女は今妊娠中で、そんな浮気っぽいことをする気にはなれなかった。

桃にとって、唯一の願いは、順調に菊池家を離れ、母親と一緒に静かな場所で平穏に生活することだった。

やがて二人は会社に到着した。

雅彦は桃を自分のオフィスに連れていった。

海が報告書を持って報告しようとしたところ、雅彦のそばにいる桃を見て驚いた。

彼の認識では、雅彦はこの強引に押し付けられた桃を嫌っていたはずだが、今や彼女を会社に連れてきて、しかも自分のアシスタントとして密接に接触する仕事をさせているなんて、前代未聞だった。

桃は海を見てうれしかった。彼はあまり自分を困らせないし、彼から学ぶ方が慕廷彦の冷たい皮肉を聞くよりもずっとマシだった。

桃はすぐに言った。「せっかく海さんが来てくれたんだから、彼のもとで勉強させてください。彼ならきっと私に色々教えてくれると思います」

桃は海にとても親切に接した。雅彦のオフィスで彼と二人きりになるのは避けたかったからだ。

雅彦はそれを聞いて、なぜか不機嫌になった。

この女、他の人には熱心なのに、私には避けるような態度をとるのか?

「必要ない、お前の仕事は私が直接指示する。海、お前は先に出ていろ」

海はちょうど海外から送られてきた資料を持っていて、そちらはすでに位置情報システムを起動していたが、雅彦のサインがまだ必要だった。

「ですが……」
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