第56話

　足首から激しい痛みが走り、桃は一目見て苦笑した。

　彼女は本当に運が悪い。まさに「泣きっ面に蜂」だ。

　桃は一足引きずりながら外に向かって歩いていたが、突然、後ろから医者がやってきて、手を差し伸べて彼女を支えた。「お嬢さん、大丈夫ですか？」

　医者に支えられたことに桃は少し恐縮して、「ありがとうございます」と急いで言った。

　医者は桃を見て少し驚いて言った。「あれ、この前手術をお願いしに来た人じゃないですか？」

　そう言われて、桃もその医者を思い出した。

　「今、体調はどうですか？」

　桃が前回の中絶手術を依頼したときの惨めな姿を見て、医者は彼女の印象が深く残っていた。彼は彼女が家庭内暴力に苦しむ可哀想な女性ではないかと心配していたのだ。

　「ありがとうございます、おかげさまで元気です。」

　医者は彼女の捻挫した足を見て、眉をひそめた。「今の状態では歩くことができませんね。こうしましょう、僕が家までお送りしましょう。怪我が悪化するのを防ぐためです。」

　桃はこの医者が責任感のある良い人だとわかっており、今は歩くのが本当に大変だったので、彼の親切を断らなかった。

　医者は桃を手助けして車に乗せ、住所を聞いてから出発した。

　約30分後、車は菊池家の前に停まった。

　医者はこの堂々とした建物を一目見て、目の前の女性が豪邸に住んでいることに驚いた。ただ、この豪邸は普通の人々が我慢できるものではないようだな、と心の中で思った。

　桃は再度感謝して車を降り、医者が車のドアを閉めるのを手伝ってくれた。その後、彼は少し考えた後、心を込めて言った。「何か助けが必要なことがあれば、遠慮せずに僕に連絡してください。家庭内暴力を恐れることはありません、あなたはまだ若いですから。」

　医者はそう言ってから、桃の肩を軽く叩いた。

　桃は彼の目に深い同情を見て、少し恥ずかしく感じた。

　この医者、何か勘違いしているのかしら？

　彼女は何か言おうとして、この気まずい状況を説明しようとしていた時、突然、後ろから冷たい男の声が響いた。「どうした、病院に母親を見舞いに行くと言って、結局は不倫相手に会いに行ってたのか？」

　雅彦が現れ、医者の手が桃の肩に置かれているのを見て、不快そうに睨んだ。

　雅彦の失礼極まる言葉を聞いて、桃の顔がわずかに赤くなった。彼女は恥