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第385話

작가: 夏目八月
さくらは答えた。「病気になられたので、青木寺に移られたのよ。一つは静かに療養するため、もう一つは青木寺に仏様の加護があるからだと思う」

寧姫は首をかしげた。「病気だからこそ、燕良親王邸に留まるべきではないの?少なくとも何かあったときに、屋敷の人々がすぐに気づけるでしょう」

寧姫にも分かる道理を、燕良親王が知らないはずがない。

さくらは実際とても心配していた。燕良親王の封地である燕良州は、青木寺からも都からもそれほど遠くない。

療養のために送るのなら、都に戻すほうが良いのではないか?少なくとも都には屋敷があり、御典医や丹治先生もいる。

今は青木寺に菊春と青雀を丹治先生が送って世話をさせているが、やはり身近に親族がいないのは寂しいだろう。

さくらは言った。「行ってみれば分かるわ。この数日、潤くんのことを母上にお願いできますか」

「もちろんよ、任せなさい」恵子皇太妃はさくらの役に立てることが嬉しそうで、胸を張って引き受けた。

この様子を見た寧姫は驚いた。

この数日間、彼女はさまざまな軽食に夢中になっていて、屋敷で何が起こっていたのか知らなかった。

そのため、義姉が出て行くと、寧姫は小声で尋ねた。「お母様、義姉とうまくいってなかったのではなかったの?どうしてこんなに仲良くなったの?」

恵子皇太妃はため息をついて言った。「あなたの義姉も可哀想な人なのよ。家族は潤くん一人きりなんだから。私も彼女を苦しめるわけにはいかないわ。自分の娘のように可愛がるべきなのよ」

寧姫はその言葉に違和感を覚えた。「宮にいた時はそんなふうに言ってなかったわ。私が忠告しても聞く耳を持たなかったじゃない」

「母がどうして聞かなかったというの?聞き入れたからこそ、彼女に優しくしているのよ」

寧姫は母の少し後ろめたそうな様子を見て、それ以上追及するのをやめた。結局、義姉に優しくしてくれれば良いのだから。

さくらは今回の外出に他の人を連れて行かなかった。棒太郎に馬車を操らせ、自分と紫乃が馬車の中に座った。お珠すら連れて行かなかった。

紫乃はようやく、雲羽流派が探り出した情報をさくらに伝えた。

「あなたの叔母が青木寺に療養のため送られたのは、彼女の意思ではないわ。府中の金森側妃の仕業よ。叔母さんの二人の娘たちも、母親のことなど全く気にかけていない。まるで金森側妃を実の母親のよう
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    横になってまもなく、物音が聞こえてきた。かすかな足音に混じって、呪詛の声が漏れている。楽章は身を起こし、目を細めて暗闇を見据えた。向かいの山から一団が下りてくる。ほとんど気づかないところだった。全員が黒装束で、ただ一人だけが違う色を着ていた。どんな色かまでは判然としない。呪詛の声はすぐに途絶えた。口を塞がれたのだろう。野営の一行よりもずっと遠くにいるため、楽章の目が利くとはいえ、はっきりとは見えない。ただ、彼らの動きは素早く、野営の一団と合流しようとしているように見える。楽章は立ち上がった。表情が引き締まる。妖怪との一杯は叶わなかったが、その代わり陰謀の匂いが漂ってきた。闇に紛れての合流。そして先ほど呪詛の声を上げた女を連れている。驢馬の背から師匠から託された神火器を取り出し、手早く拭う。まだ使い方を完全に会得しているわけではない。ただ、師匠がこれを作り上げた時、山頂で一時間もの間笑い続け、山中の生き物たちを総崩れにさせたことは知っている。音も立てずに下り始める。もちろんこの道具だけでは心許ない。常に携帯している武器もある。官道脇の茂みに身を潜め、二つの集団の合流を見守る。まだ顔かたちまではわからないが、男女の区別くらいはつく。前方に這いよるように進もうとした時、近くの木に何か光るものが目に留まった。見上げると、枝の上に一人の女が立ち、緊張した面持ちで前方を見つめていた。おそらく暗くてよく見えないのだろう、むやみに動こうとはしない。この女は……師姉の配下の紅羽によく似ている。胸が締め付けられた。紅羽は師姉が師妹に付けた護衛だ。となると、あの黒装束の連中が連れているのは師妹なのか?すぐさま緊張が全身を走る。敵の数を数え、黒装束の集団の足運びから軽身功の腕前を探る。これは厄介だ。総勢百人を超える。もし本当に師妹が捕らわれているなら、この場で命を落としても仕方がない。いや、死んだ後で師匠に死体まで鞭打たれるだろうが。師妹かどうか確かめようとする中、紅羽の立つ枝がキシキシと音を立て始めた。一瞥すると、紅羽が飛び移ろうとしているのが見えた。すかさず小さな物音を立て、紅羽の注意を引く。紅羽は音のした方向に素早く振り向いた。漆黒の闇の中、茂みに潜む人影が味方か敵かも分からない。楽章は身を躍らせ、紅羽の横の枝に軽々と舞い降

  • 桜華、戦場に舞う   第1101話

    官道を行く驢馬の鈴の音が、チリンチリンと夜風に乗って響く。男は口に草を咥え、小節を口ずさみながら歩を進めていた。彼は夜道を行くのが何よりも好きだった。闇夜には言いようのない魔力が宿る。まるで何かが忍び寄ってきそうな、背筋がゾクゾクするような気配に、かえって心が躍る。できることなら、妖怪か何かと出くわして、一杯やれたらいいのにと思う。腰の瓢箪には師叔から失敬した酒が入っている。その酒を盗むために馬も乗れず、古月宗まで借りに行くはめになったのだ。しかし古月宗に馬などあるはずもない。宗主は渋々、年老いた驢馬を引き出してきた。「できるだけ引いて歩きなさい。乗ってはいけませんよ。この驢馬はあなたの体重に耐えられず、過労死してしまいます。荷物を運ぶだけにしておきなさい」と、しつこいほど念を押された。まったく、引いて山を下りるなら、荷物を背負って歩いた方がまだましだ。驢馬など連れて行く意味があるのだろうか。とはいえ、年寄りを侮るものではない。驢馬は年老いてはいるが、人よりも速く走れる上、持久力もある。梅月山から河州までほとんど休むことなく走ってきた。あと一時間ほどで河州に着くだろう。音無楽章は声を張り上げて小節を歌う。京都は華やかで、美酒は尽きることなく、可愛い師妹の頭も撫でられる。これぞ人生の極みではないか。手に持った竿を上げ、驢馬の目の前にぶら下げていた人参を少し後ろへ下げた。やっと食べられるようになった驢馬は、モグモグと美味しそうに人参をほおばった。宿を取る気はなかった。河州の外れで風光明媚な場所を見つけ、美酒を開けば、もしかしたら妖怪たちと痛飲できるかもしれない。それこそ至福の時というものだろう。「山は高くそびえ~て、川は遠くまで続くよ~、驢馬は人参かじりながら~、空は暗くなってきて~、風がそよそよ吹いてる~、蚊どもは楽章の血を吸ってる~」茣蓙を広げ、地面に敷き詰める。パシッ、パシッと両頬を叩いて、四匹の蚊を退治した。驢馬を繋いで、蚊遣り草に火を点け、瓢箪の酒を取り出す。茣蓙の上に寝そべって足を投げ出し、栓を抜くと、グビグビと大きく喉を鳴らした。梅の酒。去年仕込んだ梅酒だ。口に含むと清冽な香りが広がり、一口で酔いが回ってくる。酔いのせいか、馬の蹄の音が聞こえてきたような気がした。小高い丘から下を覗き込む。彼に

  • 桜華、戦場に舞う   第1100話

    さくらは粉蝶の言葉を頭の中で整理した。心は乱れに乱れていたが、必死に冷静さを保とうとする。「今は紅羽一人だけが追跡しているの?」「紅羽と緋雲の二人です。ですが、もし本当に燕良親王が沢村お嬢様を連れ去ったのなら……」粉蝶は言葉を選びながら続けた。「親王の周りには腕の立つ者が大勢います。二人では太刀打ちできません。だから援軍を求めに戻って参りました。ただ、沢村お嬢様が本当に連れ去られたのかどうかさえ、確かめようがないのです」さくらは一刻の猶予も許されないと悟った。稲妻なら追いつけるはずだ。もし紫乃が都内にいるのなら危険は少ないだろうが、燕良親王に連れ去られているとなれば話は別だ。青鏡に向かって言った。「すぐに戻って山田鉄男に都内の捜索を命じて。それから北冥親王家の村上教官を呼んで、私の後を追わせて。途中に目印を残しておくから」言い終わるや否や、鞭を振り下ろし、稲妻は疾風のごとく駆け出した。紅羽は常に紫乃の傍にいたはずなのに、目の前で忽然と姿を消したという。尋常ではない。油断はできない。何としても燕良親王に追いつかねばならない。青鏡が都に戻ると、禁衛府と御城番はすでに捜索を開始していた。衛士の親房虎鉄も部隊を差し向け、清張文之進までが玄鉄衛の精鋭・飛龍衛を投入していた。紫乃は彼らの師匠なのだ。その失踪に、皆が焦りに焦っていた。禁衛府には城門を封鎖する権限がない。そこで青鏡は刑部の玄武のもとへ急いだ。玄武は逆に最後まで事態を知らされていなかった。さくらが単身で燕良親王を追っていると聞き、眉をひそめた。「一人で追いかけたのか?」「はい。親王様、今は城門の封鎖が急務です。師匠が燕良親王に連れ去られたのではなく、何処かに匿われていて、この混乱に紛れて都を出ようとしているかもしれません」玄武は心配そうに眉を寄せた。一人で追うのは危険すぎる。犯人追跡の名目で城門を封鎖したが、完全な通行止めではない。出城する者は皇族貴族から庶民商人まで、身分を問わず厳重な検査を行うこととした。城門だけでなく、都から抜け出せる山道にも兵を配置した。さらに今中具藤に命じて、刑部の役人たちに令状を持たせ、都中を捜索させた。死士たちが紫乃を匿い、機を見て都から連れ出そうとしている可能性も考えられたからだ。最も懸念されたのは、さくらが追跡に出た時には、すで

  • 桜華、戦場に舞う   第1099話

    半時間ほどして、使いの者が戻って来た。「沢村お嬢様は御屋敷にはおられませんでした。屋敷の者の話では伊織屋にいらっしゃるとのことで、そちらまで確認に参りましたが、工房にもお姿はありませんでした。ただし、本日燕良親王家から物資が届いているそうですが、沢村お嬢様は直接受け取っておられず、確認されていない荷物が外に積まれたままとのことです」さくらの心臓が一瞬止まりそうになった。燕良親王家から伊織屋へ物資?紫乃は?そして紅羽たちは?紫乃と一緒にいるのだろうか?急いで立ち上がると、外に飛び出して「粉蝶!」と呼びかけた。しばらく待っても返事はない。おかしい。今日は確かに自分の側にいたはずなのに、どこへ消えたのだろう。何か様子がおかしい。とても。「上原殿、どうされました?」村松が駆け寄ってきた。「粉蝶さんをお探しですか?戻る途中で彼女と行き違いました。かなり慌てた様子で立ち去っていきましたが」「どこで会ったの?」さくらは息を切らして尋ねた。「禁衛府の外の通りです。城門から戻る途中でした」「つまり、燕良親王が都を出る時?」さくらの胸に重たい塊が沈んだ。馬小屋へ走りながら、村松に叫んだ。「今夜の訓練は中止!全員で沢村紫乃を探しに行く。山田鉄男の禁衛も呼んで!」紫乃に何かあったのかはわからない。ただ、胸の中の不安が刻一刻と大きくなっていくのを感じた。「上原殿!」村松も追いかけてきた。「師匠様は単に親王家や工房以外の場所にいらっしゃるだけかもしれません。そこまで心配なさらなくても」「だからこそ探すのよ!」さくらは稲妻の手綱を取ると、一気に跨って駆け出した。まず都景楼へ向かった。雲羽流派の支部があるはず。紅羽がいないか確認するためだ。都景楼の番頭の話では、紅羽どころか他の密偵たちの姿も見ていないという。何の連絡もないまま、皆が忽然と姿を消していた。村松が部下を引き連れて追いついてきた時、さくらは焦りを帯びた声で言った。「工房へ行って紫乃が今日立ち寄ったか確認して。それと、誰かを親王家にも遣わして、紫乃が燕良親王邸以外にどこかへ行くと言っていなかったか聞いてきて」「承知いたしました!」村松は師匠のことが心配になった。さくらがここまで取り乱すのは珍しい。すぐに馬を返して部下たちに指示を飛ばした。工房に着いた村松は、師匠が来ていないこ

  • 桜華、戦場に舞う   第1098話

    さくらは燕良親王一家の都落ちの日取りを把握していた。そのため、御城番の兵士たちに見張りを命じ、一行が都を出た後に報告するよう指示を出していた。村松碧が自ら部下を率いて監視に当たった。燕良親王家の馬車の列が堂々と城門を抜けていく様子を見守る。親王の身分ゆえ、出城の際の検査は免除されていたが、それでも燕良親王は馬車の簾を上げ、軽く頷いて会釈を返した。城門を守る若き松平将軍も、深々と一礼して見送った。検分の命令がない以上、誰も車駕を調べる勇気などなかった。そもそも親王が令符を示せば、姿を見せることすら必要なく通行が許されるのだ。村松たちはその場を離れ、禁衛府に戻ってさくらに報告した。さくらは燕良親王一家の出立を聞き、やっと胸を撫で下ろした。最近、御城番では体力検査を実施していた。不適格者を淘汰したとはいえ、まだ精鋭部隊とは言い難く、その多くが玄甲軍出身というには相応しくない有様だった。数年の緩みで、規律正しい兵士までもが堕落してしまっていた。俸禄さえもらえるなら、なぜ苦労して訓練する必要があるのかと、皆が怠惰な考えに染まっていた。もちろん、自らが玄甲軍であることを忘れない者たちもいた。だが、それは少数派に過ぎなかった。多くの者が誘惑に負けてしまう。清水一椀に墨一滴落とせば、水全体が黒く染まってしまう。だが、墨一椀に清水一滴を落としても、跡形もなく消えてしまうものなのだ。さくらは焦りを感じていた。自分の指揮官としての立場が長くは続かないだろうと悟っていたからだ。兵士たちの怠惰な性質は根深く、自ら監督せねばならなかった。村松の威厳が一向に確立されないことも、彼女の頭痛の種だった。今日の集中訓練では、さくら自身が隊列に加わり、兵士たちと共に走り、跳び、よじ登り、組み手をした。誰でも彼女との手合わせを歓迎すると宣言した。紫乃が以前から言っていた通りだった。御城番の連中は腐っている、まともな訓練など一度も受けていないのだと。紫乃に統率できないなら、自分がやるしかない。訓練場では、照りつける陽光の下、さくらは素手で次々と兵士たちと対峙した。日中の訓練で数人が熱中症を起こしてからは、夕暮れ時に訓練を移した。幾日もの訓練で、さくらの白い肌は様変わりした。最初は真っ赤に日焼けして皮が剥けたが、今では健康的な小麦色に変わっていた。日中は

  • 桜華、戦場に舞う   第1097話

    荷物は五台もの車に及び、植木は荷車で運ばれることになった。親王家の使用人のほとんどが総出で手伝いに出ていた。出発の時、燕良親王も姿を現した。男性的な魅力を漂わせながら、慈悲深げな表情で紫乃に声をかけた。「これらが工房のお役に立てば幸いです。屋敷にはまだ色とりどりの刺繍糸も残っておりまして、上質な刺繍品が作れそうなものばかり。もしよろしければ、沢村お嬢様にも見ていただきたいのですが」紫乃は警戒心を抱きながらも、丁寧に断った。「結構です。外に運び出していただければ」「無理には申しません」親王は振り返って家人に命じた。「刺繍糸もすべて運び出すように。車が足りなければ追加で手配するように」使用人たちが急いで中へ戻る中、親王は紫乃の姿を眺めた。蓮の花びらを思わせる薄紅色の単衣に浅緑の袴姿。その清楚で愛らしい装いに、親王の目元が柔らかくなる。「紫乃も喉が渇いたでしょう?お茶と菓子を」「紫乃」という呼びかけに、紫乃は思わず吐き気を覚えたが、何とか抑え込んだ。「喉も渇いておりませんし、お腹も空いてはおりません」紫乃は礼儀正しく答えた。「ご配慮ありがとうございます」親王の視線が紫乃の頬に長々と留まった。「では、強いることはいたしません。私も荷造りがございますので、これで失礼いたします」「どうぞお戻りください。こういった些細なことでお手を煩わせてはなりません」普段なら強気な物言いをする紫乃だが、工房の代表となってからは、自然と言動に気を配るようになっていた。工房の評判を傷つけるわけにはいかなかった。これまでにも、散々な噂や中傷に晒されてきた工房だったのだから。寄付に関しては、さくらや清家夫人とも相談済みだった。使えるものは何でも受け取る方針で一致している。まだ工房は採算が取れていない。働く人たちの衣食を支えなければならない。それに、寄付を受けることで善意を受け入れ、より多くの人々の理解と関心を集めることもできる。もちろん、寄付の受け取りは自分たちが担当し、澄代や錦重には表に出させない。そこは徹底していた。色とりどりの刺繍糸が束になって次々と運び出されてくる。予想以上の量に、紫乃は沢村氏に尋ねずにはいられなかった。「これほどの量の刺繍糸を、何のために?」「都での日々は退屈で、友人もいませんでしたから」沢村氏は溜め息まじりに答

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