年下の弟に転生した彼に執着されて

秘書が車を停めたのは、一軒の店の前だった。目を凝らして看板を見た瞬間、私の目が輝いた！そこには「伯爵クラブ」と大きく書かれているではないか。あの有名なナイトクラブ！？前世では、大富豪の女性しか入れないと噂される豪華絢爛な浪費の殿堂――そして、今度は私の番だなんて！そういえば、颯真の世界では、ちょっとでもイケメンを見たら「檻」に閉じ込められ、彼の異常な「折檻」を受けていた私......だが、今はもう誰にも止められない！私は車を降り、サングラスを外すと、目の前にある閉ざされたクラブの扉を見つめ、抑えきれない興奮を感じた。昼間だから営業していない？そんなの関係ないわ！何しろ今の私は、千億円を持つ女社長なのだから！顎を軽く上げると、秘書はすぐに察して電話をかけ始めた。5分も経たないうちに、クラブの扉が開いた。ママさんが息を切らせながら迎えに来た。「浅川社長がいらっしゃるなんて、事前に教えていただければ！」私は唇をわずかに弧を描かせた。「気にしないで。店にいるイケメンのモデルを全部呼んできて」そして、黒いカードをママに手渡し、これまでで一番豪華な声で言った。「一人残らずね！」カードを受け取ったママさんは、喜びに満ちた顔で私を個室に案内した。そして10分も経たないうちに――目の前にはずらりと並ぶ、美男たちが現れた。陽気な大学生、日焼けしたスポーツマン、金髪碧眼の外国人モデル、高嶺の花のような紳士......まさに種類豊富。男たちに囲まれ、鍛えられた腹筋が手の届くところにあるという贅沢な時間。こんな瞬間に、他のことを考える余地なんてあるわけがない！どれくらいの時間が過ぎただろうか？まるで皇帝のような待遇に浸っていると、突然、電話が鳴った。「社長、そろそろテープカットの時間です」時計を見ると、いつの間にかそんな時間に。名残惜しさを感じつつも、私はナイトクラブを後にした。車に戻ると、秘書が私の首をじっと見つめていた。「社長、どこかのイケメンにキスマークを付けられましたね」「スカーフで隠しておきましょう。記者が写真を撮りますから」私は無言でスカーフを受け取り、軽く首に巻いた。車が孤児院に到着した。私はテープカットを終え、敷地内をゆっくりと歩き始めた。周囲を見回しな

誰もがイケメンの魅力には抗えない。たとえ彼が今年18歳になったばかりだとしても。だが、成績優秀で品行方正な孤児を支援して大学に通わせるのは、この富豪である私の務めではないか？さらに、彼に快適な住まいを提供するのも、私にとってはお手の物だ。そう、決して彼がイケメンだから家に連れてきたわけではない！そう自分に言い聞かせていると、一緒に家に帰ってきた悠真が突然口を開いた。「お姉さん、家すごく広いね」彼が笑うと、その笑顔があまりに魅力的で、つい見惚れてしまった。悠真は家の中を見て回りながら、不意にこんなことを言い出した。「お姉さん、下面、食べさせてあげようか？」......え？一瞬、耳を疑った私は、慌てて手を振りながら、支離滅裂なことを口走った。「ちょ、ちょっと待って！そんなのダメ！私はそういう目的で君を支援してるんじゃないから！」そんな私の反応に、悠真は不思議そうな顔をして振り返った。手には一束の乾麺を持ち、無邪気な笑顔を浮かべている。「お姉さん、麺、嫌いなの？」言葉を失った私は、顔が一気に熱くなった。まるで自分が女の変態みたいに思えてきた。悠真は気にする様子もなく、キッチンに向かい手慣れた手つきでコンロの火を点けながら続けた。「お姉さん、お腹空いてない？」「いや、別にお腹は......」そう言おうとした瞬間、私のお腹がグゥッと音を立ててしまった。それを聞いた悠真は、いたずらっぽい笑みを浮かべながら言った。「すぐにできるからね」彼の笑顔がどこか魔性めいて見えたが、私はその場で固まりながら、心の中で再度確認した。絶対に彼は颯真じゃない。颯真なら、こんな優しいことをするはずがない。結局、悠真は麺を茹でるどころか、テーブルに見事な料理を並べてくれた。そういえば今日は、まともに何も食べていなかった。悠真の料理は、驚くほど美味しかった。私は夢中でそれを平らげた。だが、彼は向かいの席で片手を頬に当て、私をじっと見つめていた。自分では食べる気配もない。「ゆっくり食べてね」そう言いながら、彼は私の口元についたご飯粒を指で拭き取った。こんな優しい弟分を家に迎えるのも悪くないかも。しかも、料理がこんなに上手なんて！夜も更け、就寝の時間になった。悠真ももう成人している

私は何も考えずに走り続け、気がつくと心理クリニックの前に立っていた。中から医師が私を見つけ、慌てて飛び出してきた。「何があったんだ？」整ったスーツ姿のその男性を呆然と見つめた瞬間、脳裏に過去七年の記憶が鮮明によみがえた。この男性の名前は三浦悠司。彼は私のプライベート心理カウンセラーであり、なんと婚約者でもあった！私がいなかった七年間、この身体は深刻な精神疾患に悩まされ、何度も自殺を図ったらしい。その命を救い、心身ともにケアしてくれたのが悠司だった。彼は温厚で細やか、高身長でハンサム。私の日常生活も完璧に支えてくれた。収入は私の千分の一にも満たない普通の心理カウンセラーだったが、それでも私は彼との婚約を決意した。悠司は裸足で駆け込んできた私を見て、すぐに上着を掛け、私をオフィスに連れて行った。「真奈、ここで少し待ってて。熱いお茶を入れてくるよ」彼が部屋を出た隙に、私は診療室を見回した。広々とした明るい窓や、心地よい香りが漂う室内ーーどこも、私のものではない記憶と一致していた。私は過去の診療記録を手に取ってみた。そこには、私がここで7年間治療を受けていたことが詳細に記されていた。7年前、彼には私一人しか患者がいなかったらしい。このクリニックも、私の出資で開設されたものだった。だが今の私にとって、悠司はただの見知らぬ男性であり、婚約者として意識することなど到底できない。それでもーー彼が7年間も「私」を支えてきた事実には変わりない。とりあえず、様子を見ながらだな。そう思い、話は後日はっきり持ち出すことにした。考え込んでいると、悠司がお茶を持って戻ってきた。「真奈」彼は私の戸惑う表情を見て、どこか達観したような微笑みを浮かべた。「真奈、もしかして僕が誰だか思い出せないのかな？」私は驚きつつも頷いた。「どうしてわかったの？」彼は軽く笑い、少し寂しそうな顔をして答えた。「この7年間、君は時々記憶を失うことがあったんだ。僕のことを忘れるのも、珍しいことじゃないよ。だから、僕たちのことは全部あの診療記録に書いておいたんだ」彼は指を指して、さっき私が読んでいた記録の本を示した。恐らく、7年前にこの身体に宿った私の魂が不安定だったため、記憶が散逸してしまうことがあったの

その日、私は悠司のクリニックを訪れ、毎月恒例の再診を受けることにした。同時に、婚約解消の意思を伝えるつもりだった。目の前に座る悠司は金縁のフレームなし眼鏡をかけ、上品で整った顔立ちが際立っていた。彼はいつも通り、淡々とした調子で私にいくつかの質問を投げかけた。私はそれに一つ一つ正直に答えた。だが不思議なことに、悠司のクリニックに来ると、漂う心地よい香りのせいか、いつも安心感に包まれる。その結果、彼の言葉には無意識に従ってしまうのだ。心理カウンセリングを終えた後、悠司は今月分の薬を準備しに部屋を出た。その時、彼のソファに置かれたスマホが「ピン」という通知音を立てた。ふと目をやると、LINEのメッセージが届いている。送り主の名前は「ルル」と書かれていた。【悠司兄ちゃん、忙しいの？】この呼び方、見たことあるぞ。攻略経験豊富な私には一目で分かった。これ、典型的なビッチだろう！疑念が募る中、私はスマホを手に取り、画面をタップしようとした。すると、また「ピン」という通知音が響いた。「悠司兄ちゃん、明日はあの女との結婚式だよね。計画の方は......」文末は見切れていたが、私を指して「あの女」と言っているのは明らかだ。それに、計画？一体何の話だ？その瞬間、心臓が高鳴るのを感じながら、私は悠司のスマホをロック解除することにした。以前、彼が「君の誕生日がパスワードだから、安心して」と話していた記憶が断片的に蘇った。誕生日を入力すると、驚いたことにあっさりとロックが解除された。悠司、お前は本当に隠し事がないのか、それとも私が携帯を見ないと思い込んでいるのか。きっと私が見ないと思っているだろう。だが残念ながら、私は以前の「真奈」ではない！画面が開くと、ルルから続けざまにメッセージが届いていた。【悠司兄ちゃん、あなたが抱きしめてくれないと、いつも悪い夢を見ちゃうの。早くあの女と別れて、私と結婚してね！】そして、その前のメッセージにはこう書かれていた。【悠司兄ちゃん、明日はあの女との結婚式だよね。計画は順調に進んでる？】私は震える手でスクロールしようとしたが、それ以前のメッセージは全て削除されていた。落ち着きを装って、私は悠司の口調を真似て彼女に返信を送った。【次の計画、忘れてないよな

ぼんやりとした意識の中で目を覚ますと、見知らぬ部屋にいることに気づいた。どうやら普通の民家のようだ。その時、金縁のフレームなし眼鏡をかけた男性が、一枚の書類を持ってゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。私は動揺しながら顔を上げ、彼を見つめた。「あなた、誰？」彼は狡猾な笑みを浮かべながら答えた。「僕だよ。悠司。君の婚約者さ。僕たちはもうすぐ結婚するんだよ」数秒の間、彼の言葉を反芻していると、断片的な記憶が蘇った。そうだ、彼は私の婚約者。彼はこの人生で私が最も愛しているはずの人だ。だが、その言葉を頭で反芻してみても、心には妙な違和感が広がる。最も愛している人？その瞬間、頭の中で別の人物の姿がぼんやりと浮かび上がった。その人は冷たい目元が特徴的だ。いつも私の手首を強く掴みながらこう言うのだ。「死んでも僕から逃げられると思うな」彼は悠司とはまるで正反対。そして、悠司よりもずっと美しい顔立ちをしている。私は混乱しながら、何度も自分の頭を拳で叩いた。一体、何を忘れているんだろう？そんな私の様子を見て、悠司がすぐに近づき手を取ると、ペンと紙を差し出してきた。「真奈、ここにサインしてくれ今日は僕たちの結婚式だ。この書類さえあれば、全てが正式なものになる」悠司の声はだんだんと興奮気味になり、その笑い声はどこか狂気じみていた。私は戸惑いながら、書類に目を向けた。財産譲渡契約？見覚えのある言葉に、胸がざわつく。私が何も反応しないのを見た悠司は、ポケットから懐中時計を取り出し、私の目の前で揺らしながら急かした。「早くサインしてくれ！ぼうっとしている暇なんてない！」懐中時計が目の前で揺れるたびに、意識がさらにぼやけていく。その間も悠司は執拗にサインを求めてきた。「真奈、ここにサインするんだ。早く！」彼の声に操られるように、私の手は勝手にペンを動かそうとしていた。その時だった。「ドンッ！」扉が勢いよく開け放たれる音が響き、誰かが部屋に飛び込んできた。私は驚いて顔を上げた。意識の中でぼんやりしていた人影が、一瞬で鮮明になった。彼だ！「悠司、お前......ふざけるな！」颯真は悠司を激しく蹴り飛ばした。そのまま床に倒れ込んだ悠司に拳を次々と振り下ろした。悠司は