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第8話

私はトイレで吐き気に襲われ、ひどく嘔吐していた。強い酒が喉を通るたび、もともと痛んでいた胃がさらに激痛を感じさせる。

無造作に薬を二錠飲み込み、外へ出た。

廊下の先が高い影に遮られ、亮介が煙草を消して私の方へ歩いてくる。

「柚希、あの契約が欲しいのか?」

濃い煙草の匂いにむせ返り、私は数歩後退する。それでやっと、亮介が煙草を吸っているのを見るのが初めてだと気づいた。

以前の亮介は、少々荒れてはいたが、酒は飲んでも煙草には手を出さなかった。あの頃の彼は、どこか柑橘系のような独特の香りを纏っていたが、それは柑橘よりも少し苦みがあった。

煙草の匂いがますます強くなり、気づいたら亮介が私を壁に押しつけていた。

頭を上げると、さっきの嘔吐のせいで目尻が赤く染まっていた。

「そんなことを聞いて楽しい?」

亮介はぼんやりと私を見つめた。

「そのプロジェクトをお前に譲ることもできる」

一瞬、心に希望の灯がともった。もしかしたら、亮介もそんなに悪い人じゃないかもしれない。

「ただし、あの日のことを里奈に謝るならな」

やっと芽生えた希望が打ち砕かれた。やはり、この男がそんなに簡単に譲歩するはずがない。

結局、彼はあの人にはなれないのだ。

胃の痛みが増し、痛み止めはもう効かない。私は歯を食いしばり、怒鳴った。

「たとえ私が業界から追放され、路頭に迷おうとも、松井里奈に謝るつもりなんてない。諦めたほうがいいわ」

彼を強引に押しのけ、最後のプライドを保ちながらその場を去った。

背後で「ドン」という音と、彼の怒鳴り声が響く。

「柚希、少しは譲ってみることがそんなに難しいのか?」

私は振り返ることはなかった。

私は再び病院に行き、癌細胞がすでに全身に転移していることがわかった。

医師は強く入院を勧めた。

しかし、私は首を振って薬を処方してもらうよう頼んだ。

医師は説得を諦め、去り際に尋ねた。

「命より大切なものなんてあるのでしょうか?」

私は目を伏せた。

あるわ。

もちろん、ある。

入札会の日、私はいつもより多めに薬を飲んだ。

亮介は座席に腰を落ち着け、悠然とお茶を飲みながら会社の報告を聞いている。口元には確信に満ちた笑みが浮かんでいた。そして彼の隣には、まるで季節を無視するかのように、豪華でふんわりとしたミニスカートを着た里奈が座って
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