家を買うために、彼氏の平井要(ひらい かなめ)と節約生活を頑張ってたんだ。 なのに、この間、要がボーナスで40万円もらったって言って、ブランドバッグをプレゼントしてくれた。 正直、嬉しかったけど、同時に「これ、必要だったのかな?」って思っちゃった。 それで、レシートとバッグを持ってお店に返品しに行ったんだけど、店員さんにこう言われた。 「こちらの商品、偽物ですね」 は?ってなったよ。でも、レシートは本物なんだよね。
View More優が元夫に浮気を見つかったって話、聞いたことある?つまり、あの女の私生活って、かなり汚れてるってことだ。要だけが相手だったなんて、誰が保証できる?まあ、ただの思いつきで言っただけ。でも、それが要の心に疑いの種を植えちゃったのは間違いない。私もそれ以上気にするつもりはなかったんだけど......その後、優が女の子を産んだって話を聞いた。子どもが生まれるなり、要はすぐ親子鑑定をしたらしい。結果は――彼の子どもじゃなかった。それを聞いた優の元夫が、「ただの綺麗事を信じた哀れな男だ」って嘲笑してたんだって。結果を知らされた要は、泣いたり笑ったりして、もう完全におかしくなってた。病室に飛び込むなり、優の手から赤ん坊を奪い取って、高く持ち上げて殺そうとしたらしい。その時、そばにいた堀江が突然、要の前でひざまずいて、「要、やめてくれ。責めるなら俺を責めろ。この子は俺の子だ。俺が悪いんだ」って謝り始めたんだ。でも実際には、要が酔わされて早く眠っちゃったあの夜、彼には優に何かする力なんてなかった。優は要の服を脱がせて、あたかも一緒に寝たように見せかける写真を撮っただけ。要が何も覚えてないのをいいことに、何もなかったことにして信じ込ませようとしたんだ。さらに優は、偶然知った要の健康診断の結果を利用して、一生彼を縛り付けようと企んだ。優は「要の子どもを妊娠した」って嘘をついて既成事実を作ろうとしている。そのために、昔から彼女に片想いしてた堀江に頼みこんだんだ。堀江も、こんなチャンス逃すわけにはいかないって思ったんだろう。それで計画に乗ったって話。真相を知った要は、怒りに任せて堀江を殴り倒した。堀江は反撃することもなく、そのまま病院送りにされるくらいの重傷を負ったらしい。さらに追い打ちをかけるように、要の母親が孫娘が本当の孫じゃないって知って、怒りのあまり体調を崩し、脳梗塞で半身不随にまでなっちゃった。巨額の医療費と家のローンが要の肩に重くのしかかって、もうどうしようもない状態だったらしいよ。一方その頃、私は仕事が順調で、昇進もして、家族から見合いを勧められるくらいになってた。見合い相手は毅って人で、安定した仕事についてて、背も高くてよく笑う人だった。毅は毎朝私に朝食を持ってきてくれたり、夜になると一緒に犬を散歩したり
ある夜、堀江から電話がかかってきた。「要が飲みすぎて胃から出血して、今病院にいるんだよ。彼、ずっと君の名前を呼んでる。来てやれない?」「もう電話してくるなって言ったでしょ?」「君、そこまで冷たいのかよ......」堀江の話だと、ネットでの騒動が明るみに出てから、要の母親は世間の非難に耐えられなくなって体調を崩し、入院してしまったらしい。要は母親の看病をしながら仕事をこなして、さらに優の面倒も見なきゃいけない毎日で、ほとんど余裕がなかった。睡眠時間は一日数時間程度だったとか。結局、過労がたたって仕事でミスをし、会社をクビになったそうだ。しかも、ネットで彼の素性が晒された事件が尾を引いて、他の会社も彼を雇おうとはしなかった。毎月のローン返済を抱えている彼にとって、無職のままではどうしようもない。仕方なく配達員の仕事を始めたらしい。それで少しでも経済的なプレッシャーを軽くしようと思ったんだろうね。私は冷めた口調で言い放った。「で、それが私に何の関係があるの?病気なら医者に行けって話でしょ?」電話の向こうで何かを投げつけた音がした。何かが砕けるような大きな音だった。私はためらうことなく電話を切り、その番号を消去した。次に要に会ったのは、彼が配達の仕事中だった。要は制服を着て、安全帽をかぶり、30℃を超える猛暑の中、汗びっしょりだった。私の姿を見た彼は、一瞬固まった後、気まずそうに目をそらしながら苦笑いした。「美咲、俺、こんな姿だよ。笑えるだろ?」私は首を横に振った。「今君が何をしてても、私には関係ないわ」要は肩を落として、ぽつりと呟いた。「そうだよな......俺、あの時、幸せの中にいるのに、それに気づけなかったんだよな。俺たち、あんなにいい未来があったのに、全部俺が壊した。君は本当にいい子だった。努力家だし、決断力もあるし、勇気もある。君が俺と付き合ってくれるって言ってくれた時、本当に嬉しかったんだ。でも、自分の身体がどうなってるか分かってから、毎日が怖くて仕方なかった。君に知られるのが怖くて、君に去られるのが怖くて......優のことなんか好きじゃなかった。ただ酔っ払っただけで、全部が狂った。あの子が生まれるって聞いた時、驚きと恐怖で頭が真っ白になった。俺に子供ができるなんて驚きと、他の
すべてが計画通りに進んでいるとでも思ったのか、優は勢いそのままにネットに文章を投稿したんだ。「幼馴染の関係に割り込んだ上に、要に200万円以上を要求した」なんて、私をまるで悪者みたいに仕立て上げてね。ネットの人たちは事情を何も知らないから、優の言い分をそのまま信じて、私に対する中傷が一気に広がったの。だけど私は、要との交際の経緯や、当時優が家庭内暴力を受けていた事実を整理して、それを全部ネットに公開した。実は優が家庭内暴力を受けていたころのこと、私はあらかじめ調べてたんだ。結婚して間もなく、優がギャンブルにハマって家計を全て使い果たしてしまったらしい。それで優の元夫は、借金返済のために掛け持ちで働いて、毎日朝から深夜まで仕事漬けの生活だったらしいんだけど、借金がまだ残ってる時に、今度は優の不倫がバレたんだって。それが元夫にとっては耐え難い屈辱だったんだろうね。結局、暴力に走ってしまったらしい。その後、二人は離婚したけど、借金だけはそのまま残った。借金取りに暴力で痛めつけられた元夫に対し、優は要に助けられて贅沢な生活を送ってたんだよね。こうやって事件の真相が明るみに出ると、ネットの人たちも冷静になって調べ始めた。そしたら、「非難されるべきは優のほうじゃないか」って気づいた。結果、今度は優が非難を浴びる番になった。耐えきれなくなった優は、投稿した文章をすぐに削除したみたい。それと同時に、私は密かに優の元夫に彼女の住所を教えた。すると彼はすぐにその家へ行って、玄関に赤いペンキで「借金返済」って大きく書き残したんだって。そして、自分が債権者から受けた仕打ちを、そっくりそのまま優にやり返すって誓ったらしい。それからというもの、優は日々の嫌がらせに耐えきれず、家に閉じこもって恐怖に怯えながら暮らしてるんだって。一方で、ネットの情報通たちはさらに細かい証拠を探して、騒動の中心人物を特定したの。「なんだよこいつ、彼女の貯金をだまし取って、自分は模擬紙幣しか渡さないのか?」「この男、ほんとクズだな。二股かけていいとこ取りとかありえない」「金返して、不倫女と一緒に沈んでくれよ。もう優しい女の子を巻き込むな」こうして要の情報が拡散されるにつれて、彼の仕事にも影響が出始めた。昇進どころか降格されて、現場職に飛ばされてし
優が私を探しに来るなんて、夢にも思わなかった。しかも、私の職場まで押しかけてきて、大ホールのど真ん中で膝をつきながらこう言い始めた。「お願いだから!要お兄ちゃんに300万円も払わせないで!私の子どものことを考えて!」もう正直、オスカーの金トロフィーでも授与されるんじゃないかって思ったわ。この人、演技力すごすぎるでしょ。ホールには人が行き交っていて、周りには立ち止まって興味津々な顔でこちらを見ている人たちがいた。「優、いい加減にしなさい。立ちなさいよ」私は彼女に近づいて手を引こうとしたけど、あっさり振り払われた。すると今度は周りの人たちに向かって、涙声で訴え始めた。「子どもの父親がこの古川美咲さんからお金を借りたんだけど、分割で返そうとしたら一括で払えって無理やり迫ってくるの!私、収入も少ないし、妊娠してて家の出費も多くて、もうどうしようもないのに、こんな冷たいことされるなんて......どうしてこんな人が、普通にみんなと一緒に仕事できるの?」もう涙で顔をぐちゃぐちゃにして、いかにも可哀想って雰囲気を出しまくり。おかげで周りにいた同僚たちも彼女の話に影響されたのか、私に次々と口を挟んでくる。「美咲さん、分割払いでいいんじゃない?そんなに急いで必要なお金ってわけでもないんでしょ?」「そうだよ、子どもがいるとお金かかるし、本当に困ってるのかもよ?」「意外だなぁ。古川さんって見た目は優しそうなのに、実は冷たいんだね......やっぱり人って見かけによらないね」誰も、優が私に向けていた目つきには気づいていなかった。その目には、「してやったり!」っていう得意げな笑みが浮かんでたのに。ああ、これは完全に私を怒らせてさらに大事にしようって魂胆だなって、すぐに分かった。「わかった」私はわざとあっさり同意する素振りを見せた。「えっ、本当に?」優は、私がこんなにあっさり頷いたことが予想外だったみたいで、戸惑った顔をしてた。でも私は、彼女の挑発に乗るつもりなんてこれっぽっちもない。ここで騒ぎを大きくしたら会社に迷惑がかかるし、まずは彼女をこの場から追い出すことが先決だって思ったの。優は拍子抜けしたみたいで、小さな声で「なんだ、こんなに簡単に折れるなんて......」ってつぶやいた。「会社で騒ぎ起こしてるんだ
私が家に帰ると、要はもう自分の荷物を全部まとめて、出て行っていた。もともと広々としていた部屋が、さらに静かになって、やけに寒々しく感じた。テーブルの上には、置き去りにされた要の鍵がポツンとあって、そこには小さなアニメキャラのキーホルダーがついていた。あれって、私たちが旅行に行ったときに街角で見かけた、白髪の夫婦から買ったやつだよね。あの二人、たしかお互いが初恋で、若い頃からずっと一緒にいて、今でも仲良しだって言ってたっけ。そのとき私は、二つのキーホルダーを買ったんだ。スーツ姿の紳士のほうは自分用で、スカートを履いた小さな姫君のほうを要にあげた。「私たちも、あの夫婦みたいにずっと一緒にいようね」って誓い合って。でも今じゃ、その姫君はテーブルの上で汚れたまま、ひとりぼっちで転がってる。あの頃の輝きなんて、もうどこにも見当たらない。私はそのキーホルダーを外して、自分の紳士のやつと一緒にゴミ箱に捨てた。ふとスマホを見たら、優がこんな投稿をしてた。「本命とは、どんなにすれ違っても最終的には巡り会えるんだって」その夜、夢を見た。夢の中で私は要と出会った頃のこと、そしてお互いを知り、一緒に過ごした日々のことを思い出してた。私の誕生日には、必ず日付が変わると同時におめでとうって言ってくれた要。外食する時は、私の好きなものだけを頼んでくれた。ラーメンを食べるときは、私が嫌いなネギをひとつずつ取り除いてくれてた。「結婚するときは、盛大な式を挙げようね」って約束してくれた要。たくさんの花や風船、シャンパンに囲まれて、みんなの前で永遠の誓いを立てるんだって。でも社会人になってからは、節約のために外食をやめて、自炊中心の生活になった。ネイルをやめて、新しい服も買わなくなった。タピオカミルクティーが飲みたくなっても、「ダイエット中だから」って我慢するようになった。その頃、要は外で友達と飲み会を楽しんでて、帰ってくるとポケットから練習用の模擬紙幣を出して貯金箱に突っ込んだ。要は登山が大好きで、「一緒に日の出を見に行こう」って約束してくれたのに、実際に連れて行ったのは優だった。山道で優が転んで足をくじいたとき、要は飛んで行って彼女を抱き上げて、目に見えるくらい心配してた。茂みの中で、要が女の子を抱きしめてた。振り返ったその
目を開けると、病院のベッドに横たわっていた。医者が「ちょっと擦り傷と軽い脳震盪だね。大したことないよ」って軽い調子で言った。ベッドの横には要が座ってた。でも、正直言って顔なんか見たくなかった。「怒るなよ、全部俺が悪いんだ」要は目を赤くして、まるで泣き疲れた子供みたいに言った。「星野の子供って、誰の?」「......俺のだ。もう2ヶ月ちょっとになる」私は目を閉じたら、涙が頬をつうっと流れた。要は続けた「実はさ、前に健康診断で精子が弱くて、子供ができにくいって言われたんだ。それが怖くて、お前に言えなかった」星野が要を好きなのは知ってた。要もそれは気づいてたけど、あくまで妹みたいにしか思ってなかったらしい。だけど、ある日星野が要を酔わせて......その時、酔いと朦朧とした状態で、要は星野を私だと勘違いしたって。そんなふうに一晩を過ごしたらしい。その後、要はずっと悩んでたみたい。私を失いたくない、でも星野に対しても申し訳ない気持ちがあったって。だから、せめて物質的にでも星野を助けようとしたらしい。でもその一夜で、星野が妊娠してしまった。要の母親がそのことを知って、「要は子供ができにくい体質なんだから、この子供は産むべきだ」って強く言ったらしい。「もし要が星野と一緒になるのを拒むなら、星野が子供を産んだ後、こっそり養子にすればいい」って。要はその提案を受け入れて、星野を私たちの新居に連れ込み、そこで生活させることにしたみたい。「別れよう」天井を見ながら、空っぽの視線でそう言った。「結婚したいのは君だけだ、美咲。俺を許してくれないか?」要は病床の前で膝をついた。「要、あんた、私を一度も尊重したことも、信頼したこともなかったよね。自分の病気のことも、お金のことも......」彼の言葉に、心はもう何も動かなかった。「別れるなんて、絶対に嫌だ!」「あんたの同意なんて、求めてない。ただ伝えただけ」「美咲、俺が悪かった。でも、子供のことだけは、どうしても諦められないんだ」しばらくして、扉が開いて星野が入ってきた。どこか居心地悪そうな顔をして。「ごめんなさい、勢いであんなことを......」星野は私が黙っているのを見て、要を一瞥した後、また下を向いた。私は彼女をじっと見た。「私
要に何度も電話したけど、全然出てくれなかった。口座のお金がごっそりなくなってるのを知ったあの夜、私は一晩中眠れなかった。翌朝、すぐ銀行に行って取引明細を確認したら、600万円が数ヶ月前に引き出されてた。あの時のことを思い出した。数ヶ月前、要が「お母さんが入院して急にお金が必要なんだ。あと2ヶ月で母の投資が満期になるから、それで返すよ」って言ってたっけ。その後、一度お金のことを聞いたら、要は「お母さんがもう返してくれて、そのお金、ちゃんと口座に戻しておいたよ」って、笑いながら言ってた。「心配しすぎだって!うちのお母さんが踏み倒すわけないでしょ」とか言って。でも、今となってはそのお金、一度も返ってきていない。要、このクズ野郎!私のお金、持ち逃げしたんじゃないの?そんなことを考えてたら、七海から電話がかかってきた。「美咲、前に気に入ってたブルーオーシャンのあのマンション、覚えてる?庭付きで、買われちゃって残念って言ってたやつ。あの家にさ、今日誰が住んでるか分かる?」「誰?」「堀江だよ!」堀江があの家を買ったって?なんか嫌な予感しかしない。電話を切った私は、急いでブルーオーシャンに向かった。あの家は、通勤に便利だし、私も要も職場から近くて、施設も間取りも最高だった。それに小さな庭付きで、私にとって理想そのものだった。でも、まだお金が貯まってないうちに売れちゃったんだよね。あのとき、すごく惜しいって思ってたのに、まさか堀江も狙ってたなんて。ブルーオーシャンに着くと、七海と合流。七海がインターホンを押したら、なんと出てきたのは優だった。優はキャミソールにスリッパ姿で、まるで家の主みたいにふるまってた。「なんであんたがここに......?」優がドア枠にもたれかかってるところに、後ろから「誰?」って声がして、堀江が顔を出してきた。私を見るなりびっくりしてたけど。七海が勢いよくドアを押し開けて、「堀江さん、なんで星野さんがここにいるの?あんたたち、一体どういう関係なの?」って詰め寄った。堀江は慌てて手を振りながら、「いやいや、違うんだ!この家は俺のじゃなくて、優の家だよ。正確に言うと、優の仮住まいってだけで......要が優に栄養剤を届けるように頼んだから、来ただけなんだ」って弁解した。私は中に入って
家に帰ってきたら、なんだかイライラしてきた。部屋を見回した。ここは要と一緒に借りているアパートだ。あの時、要が「これから一緒にお金を貯めて家を買おう」って言ったから、この部屋は最低限の家具だけでいいって話になった。だから部屋は殺風景そのもの。リビングの食卓は角が欠けてて、木の端材で修理してなんとか使ってる状態。カーテンも要が実家から持ってきた古いやつで、色褪せて毛玉だらけ。ふと、テーブルの下にある金属製の貯金箱が目に入った。今どきみんなスマホ決済だけど、要は「現金を貯める感覚がいいんだよ」ってこの一方向式の貯金箱を買ったんだ。「これは俺たちの年末のお小遣い用貯金箱だ」って毎月二人で万円札を3枚ずつ入れようって約束した。年末になったら開けて、そのお金でプレゼント買って、一年のご褒美にしようねって。でもスマホ決済が便利すぎて、去年の年末も結局この貯金箱は開けずじまいだった。そのままずっと放置されてて、お金を入れ続けてるのに一度も開けたことがない。私は貯金箱を手に取り、隣の家のおじいさんのところに行くことにした。あのおじいさん、昔は大工をやってて、家には工具がいっぱいある。おじいさんの孫娘、中学生の子なんだけど、私が貯金箱を開けてもらおうと来たのを見て面白がって動画を撮り始めた。貯金箱をこじ開けると、中から紙幣がポロポロと出てきた。「えっ、これって札勘練習用の模擬紙幣じゃない?」慌てて声を上げた孫娘の言葉に驚いて、私も中を探ってみたら、確かに模擬紙幣がいっぱい混じってる。「半分くらいが練習用みたい。古川(ふるがわ)さん、彼氏さんに騙されてたんですね」孫娘が同情するみたいに言った。私は目を閉じて、大きく息を吸い込むと、自嘲気味に言った。「そうだね、私、バカだったみたい」そうか......とっくの昔に要に騙されてたんだ。私だけが二人の将来のために我慢してたなんて、ホントバカみたい。要が帰ってきた時、床一面に散らばった模擬紙幣と開けられた貯金箱を見て、少し焦ったような声で言った。「美咲、これは......ちょっとだけお小遣いを手元に残したかっただけなんだよ。君を騙すつもりはなかった。ただ、男って少しでも現金が手元にないとなんか落ち着かないだろ?それにさ、母さんがこう言ってたんだ。『うちの家は広いから、別
私は水を一口飲んで、ゆっくりと言った。「このバッグ、安くないんだからさ。偽物だったら納得できるわけないでしょ?警察呼んで、その店暴露してもらうしかないよね」優は少し口ごもりながら言った。「たかがバッグ一つで警察とか、大げさすぎない?」私は冷たく笑った。「今の時代、お金稼ぐの簡単じゃないんだよ?詐欺師を野放しにしてどうすんの?」そう言ってスマホを取り出し、今にも通報するぞ、という雰囲気を見せた。その瞬間、優が突然飛びかかってきて、私のスマホを叩き落とした。「私よ!私がやったの!これでいいでしょ?」優は少し開き直ったように続けた。「ただ、このバッグが可愛かったから、ちょっとの間借りたかっただけ。そんなカリカリしなくてもよくない?」私は落ちたスマホを拾い上げた。画面には大きなヒビが入っている。優、思いっきり叩き落としたんだね。「ケチだとか言うけどさ、持ち主に無断でバッグをすり替えるなんてありえないでしょ?これ、窃盗っていうんだよ。知らなかった?」私が怒りを抑えきれずに言うと、優は要の後ろに隠れた。「要お兄ちゃん、私はただこのバッグが欲しかっただけだよ。給料少ないし、買う余裕なんてないもん。ちょっとブランド物を持つ気分を味わいたかっただけ。本気で盗るつもりなんてなかったの」要は優の手を軽くポンポン叩きながら、私に向き直って言った。「たかがバッグ一つのことで、そんなに大騒ぎする必要あるか?」その一言でさらに腹が立った私は、語気を強めて反論した。「今回はたまたま気づいたからいいけど、気づかなかったらどうするの?これ、どう考えても盗みでしょ!」要は少し面倒くさそうな顔をして、やっと口を開いた。「もういいだろ、美咲(みさき)。大人になれよ。彼女だって大変な時期があったんだ。こんなことでいちいち責めるのはやめようよ」ちょうどその時、浩一が割って入った。「そうだよ、美咲。優とケンカしても意味ないじゃないか。それより、今回ボーナスが120万円も出たんだから、要にもっといいバッグ買ってもらえばいいだろう?」その言葉を聞いた瞬間、要の顔は一気に険しくなり、逆に優は得意げな表情を浮かべた。「120万のボーナス?要、あんた私には40万だって言ったよね。これどういうこと?」私は視線を要と優の間で行き来させた。浩一は自分が口を滑らせたこ
家を買うために、彼氏の平井要(ひらい かなめ)と節約生活を頑張ってたんだ。なのに、この間、要がボーナスで40万円もらったって言って、ブランドバッグをプレゼントしてくれた。正直、嬉しかったけど、同時に「これ、必要だったのかな?」って思っちゃった。それで、レシートとバッグを持ってお店に返品しに行ったんだけど、店員さんにこう言われた。「こちらの商品、偽物ですね」は?ってなったよ。でも、レシートは本物なんだよね。……「そんなわけないでしょ!レシート見てよ、ここにちゃんとあるじゃない!」って食い下がったんだけど、店員さんは申し訳なさそうに言った。「確かにレシートは当店のものです。でも、このバッグは偽物ですね。一度、購入された方に確認してみては?」友達の七海(ななみ)と一緒に店を出たけど、もう頭の中はぐるぐる。七海がレシートをじっと見ながら言った。「レシートが本物ってことは、平井さんがバッグを買ったのは間違いないよね。でもさ、この偽物って一体何?」その後もモヤモヤが消えなくて、夕飯の時間までそのことばっかり考えてた。でも、夜は要とその友達たちとの食事会があるから、気持ち切り替えなきゃって思って。要に「案件取れてボーナスも出たんだから、たまには外食くらいいいだろ」って言われて、久しぶりに外でご飯することにした。会場に着くと、要の友達がもう個室で待ってた。ちょっと遅れて要が現れたんだけど、その隣に星野優(ほしの ゆう)がいた。淡い色のワンピースに身を包んで、腕には......あのバッグ。七海が私の腕を引っ張って、小声で囁いた。「見て!星野のバッグ、あんたのと全く同じじゃん!」私も見たけど、本当に同じだった。思わず眉をひそめちゃった。星野は要の幼なじみで、数年前に結婚したものの、旦那のDVで入院するほど殴られたらしい。何度も痛い目に遭って、やっと離婚できたんだとか。その後は療養生活が長かったみたいで、その間、要がずっと面倒を見てたんだって。優は恩返しだって言って、何かと要に頼るようになった。気づいたら私の真似までし始めてた。髪型や服装、どこか私に似せてくる感じで。要にそのことを話しても、「どうして?君のセンスがいいから真似したんじゃない?」なんて軽く流されるだけ。だから七海が星野にズバッと聞いた。...
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