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第50話  

由佳は山口清次の後ろについて歩いた。

一列目の席で、加波歩美が山口清次に向かって手を振りながら、「こっちに来て。」と言った。

「行こう。」山口清次は由佳をひと目見て、足を踏み出して加波歩美のもとに歩いていった。

由佳は表情が引き攣り、顔から笑みが消えた。

由佳は山口清次が彼女と一緒に座るつもりで来たと思っていた。

彼女は加波歩美に勝ったと思っていたが、実際は山口清次が彼女に施しを与えただけだった。

「何をしているの?」山口清次が振り返って由佳に尋ねた。

由佳は目線を下げ、深呼吸して足を前に出し、山口清次の隣に座った。「加波さんもここにいるとは思わなかったわ。」

加波歩美は顔色を白くし、唇を噛んで「あ、由佳、ごめんね。マネージャーが私に来るように言ったの。ここにいるとは知らなくて、もし気になるなら後ろに行ってもいいわ。」と小声で言った。

そう言って加波歩美は立ち上がって後ろに向かって歩いた。

山口清次は彼女の手首を掴んで、「いいんだ、ここに座って。」と言った。

加波歩美は由佳を見て、「でも……」

「大丈夫、由佳は気にしないよ。」

由佳は膝の上に置いた両手でスカートをしっかり握りしめ、苦しいほど心が痛んだ。

山口清次、どうして私が気にしないとわかるの?

山口清次、私には心がないと思ってるの?

彼女は目を閉じて、自分を落ち着かせようと必死だったが、全く意味がなかった。

傍にいる山口清次が加波歩美を優しく慰めるのを見て、由佳は嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。

由佳は手元にあるマニュアルを取り上げた。その中には今夜のオークションのすべての品物の説明が載っており、有名なものや写真、素材が書かれていた。

彼女は気を紛らわすためにこれを読むしかなかった。そうしなければ、きっと気が狂ってしまうだろう。

由佳はページをめくりながら、心を完全に集中させることができなかった。

「これが好き?」山口清次が突然彼女の耳元で言った。

由佳は我に返り、手に持っていたマニュアルの開いていたページを見つめた。そこには翡翠のブレスレットが載っており、「海の心」と名付けられ、由佳のスカートとちょうどマッチしていた。

由佳は頷いた。

「買ってあげる。プレゼント。」山口清次が言った。

「ありがとう。」 最初はパー
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