共有

第352話

  「ありがとう。だけど、私たちはどちらも勝者じゃない」由佳は箸を置いた。

 「帰国してもいい。でも空港まで送らせてくれ」清次が突然条件を出した。

 由佳は少し驚いた。こんなに簡単に自分を解放するのだろうか?

 「いいわ。いつ?」由佳は少し考え込んでから、頷いた。

 「明日」

 「わかった」

 清次はテーブルの上の新しいワインを手に取り、由佳のグラスに注いだ。「飲んでみて、ここのおすすめのフルーツワインだ。」

 清次は自分のグラスにも注いだ。

 由佳はグラスを持ち上げ、清次と軽く乾杯し、唇にグラスを当てて一口飲んだ。口の中に広がるフルーティーな甘い香りが、細やかで濃厚だった。

 「どうだ?」

 「悪くないわ」由佳はもう一口飲んだ。

 「このワイン、後から効いてくるからあまり飲みすぎるなよ」

 「うん」由佳は短く返事をした。「実は、離婚届を出したその日に、あなたに食事をご馳走しようと思っていたの。当時、婚姻届を出した日に、あなたが私に食事を奢ってくれたから、今度は私が奢って、円満に終わらせたかったの。でも予想外のことが起きて、今日はその埋め合わせ。明日からあなたは帰国して仕事に専念して、私は私の旅を続ける。お互いに縛られないで」

 この言葉を口にしたとき、彼女の胸は詰まるように苦しかった。

 しかし、これは正しい選択だと分かっていた。

 「わかった」

 清次は微笑みを浮かべながら答えたが、その胸の中はまるで逆流する海水のように、苦くて辛かった。

 由佳はさらに数杯飲み、顔が少し赤らんできた。

 酒が回ってきて、頭が少しぼんやりとしてきたため、グラスを置き、眉間を揉みながら言った。「もう帰るわ」

 立ち上がった瞬間、突然目がくらんでふらつき、急いでテーブルに手をついて踏ん張った。

 清次はすぐに彼女を支え、その瞬間、彼女の髪から漂う懐かしい香りが鼻をくすぐった。

 「送っていくよ」

 「いいわ」

 「どうした?何を心配しているの?俺が悪いことをすると思ってるの」

 「するの?」由佳は少し酔った顔で、突然尋ねた。

 清次は一瞬言葉に詰まり、答えなかった。

 由佳は頭を軽く揉んで、先にその場を離れた。

 清次は急いで勘定を済ませ、ふらふらと歩く由佳に追いついて彼女を支え、レストランを出た。

 「由佳は酔っている。送ってい
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status