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第346話

由佳は今日オスロに行かず、太一が彼女の財布を見つけてくれたことを高村と北田に話した。

高村は肩で由佳を軽く突き、「本当に私たちを連れて行かないの?」と、にやりと笑った。

「私一人で大丈夫だよ」由佳は控えめに微笑んだ。

太一に感謝して食事をおごるという理由があるなら、由佳は高村や北田を一緒に連れて行くこともできた。

それでも、彼女は一人で行きたかったのだ。

高村は、由佳が太一に興味を持っていると思い、「分かったわ、頑張ってね。今夜、しっかり決めちゃって!」と肩を叩いた。

北田も、由佳が太一を気に入っていると誤解し、総峰に同情して、「由佳、慎重にね。太一のこと、まだ何も分からないんだから」と忠告した。

「分かってるわ。大丈夫、あなたたちが考えているようなことじゃないから」由佳は笑顔で答えた。

彼女はただ、太一が少し変だと思っていて、それを確認したかっただけだ。

高村は、すべてを理解したような表情をして「説明しなくても分かってるって」と肩をすくめた。

太一が予約したレストランは、由佳たち三人がまだ訪れたことのない和食のお店だった。

そのレストランの一番右側には、壁際に小さな個室が並んでいて、前後は屏風で仕切られ、左側には玉垂れがかかっていて、ある程度のプライバシーが保たれていた。

太一からのメッセージによると、彼が予約したのは奥から二番目の個室だった。

由佳が到着したとき、太一はすでにその個室で待っていた。

玉垂れがさっと音を立てて開き、由佳が中に入ると、太一が顔を上げて笑いながら「来たね。座って、クジラは見れた?」と聞いた。

由佳はバッグをテーブルの端に置き、太一の向かいに腰掛けた。「見れたよ!今日は運が良くて、クジラの群れやジャンプも見れたの。すごくきれいだったよ!写真とか動画、送ろうか?」

「うん、後でお願い」太一は開いていたメニューを由佳の前に置いて、「先に料理を選んで。僕はもういくつか頼んだから、君も見てみて」

「ありがとう」

由佳はスマホをテーブルに伏せ、メニューにチェックが入っている料理を確認した。微笑みながら「私たち、好みが似てるのね。なんだか、運命感じるわね」と冗談交じりに言った。

屏風越しに、太一は隣の個室から急に温度が下がったのを感じた。背中に冷たい空気が当たるようだった。

太一はそれに気づかないふりをして、軽
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