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第298話

殿を出ると、冷たい風が吹きつけてきて、白い雪が舞っていた。

雪が降ってきた。

由佳は空を見上げた。

清次は由佳を見つめながら言った。「今すぐ帰るか?」

由佳は天気を見て、雪がどんどん激しくなってきていたことに気づいた。この天気で高速道路を走るのは危険だと思った。

「ここで一晩過ごしましょう。明日雪が止んでから帰りましょう」

「わかった」

清次は自分のコートを脱いで由佳の肩に掛けた。由佳が断ろうとしたその時、清次が言った。「あなたはまだ産後の体調が完全ではないんだから、もっと気をつけて」

「ありがとう」

「お礼なんて言わなくていい……」

清次は言いたかった。「あなたは僕の妻なんだから、当然のことだ」と。

しかし、その言葉は結局口に出せなかった。

結婚して三年、千日以上の夜を共に過ごしてきたが、一度も彼女を「妻」と呼んだことがなかった。

今となっては、その機会もなくなってしまった。

清次は、この雪がずっと降り続けてほしいと強く願った。そうすれば、彼らはずっとここに留まり、彼女を悲しませる場所には戻らないだろう。

そうすれば、離婚もしなくて済む。

しかし、それはただの願いに過ぎなかった。

雪は夜の間に止んでしまった。

翌日、彼らは帰路に就いた。

高速から降りる時、由佳は言った。「家に戻って書類を取ったら、そのまま離婚しに行きましょう!」

彼女は腕時計を見て、「あと1時間あれば十分でしょう」と言った。

彼女の気持ちは前からわかっていたが、その言葉を聞くと、清次の心はやはり揺れた。何かが胸に詰まっていて、どうにもならなかった。

今、彼の心情は外の天気のように冷たく、雪の中にいるような寒さだった。

彼はハンドルをしっかり握りしめ、骨が白くなるほど力を入れ、喉には砂を詰めたようにかすれて痛みがあり、苦しそうに「わかった」と答えた。

二人は別荘に戻り、書類を取り出して車に戻った。

清次は車をゆっくりと発進させ、市役所に向かった。

車内は静まり返っていた。

由佳は車窓を通して流れる景色を見つめ、三年間の思い出が走馬灯のように脳裏をよぎった。

彼女は窓ガラスに映る自分の姿を見つめながら、16歳の頃の自分を思い出していた。その頃の彼女の目には清次しか映っていなかった。

25歳の由佳は16歳の由佳に微笑みかけ、「私は十分頑張った。た
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コメント (1)
goodnovel comment avatar
yas
また嘘を重ねるー………
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