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第304話  

「余計なことは考えないで。あなたは私を助けるために大けがをしたんだから、私が不安に感じるのは当然のことよ」由佳は目を伏せて言った。

 彼女は「心配」を「不安」にすり替えたのだ。まるで見知らぬ人が彼女を助けてけがをしたときのように、感謝と心配はするが、それとは違う心の痛みではない。

 ある人が言っていたわ、男のことで心が痛むとき、それはその男に自分を託している証拠だって。

 清次の瞳の輝きが薄れた。「俺がどうして助けたか、聞かないのか?」

あの危険な状況で、彼は自分の身の安全を考える余裕さえなく、無意識にハンドルを切り、ただ彼女が傷つかないようにと行動した。

「理由はどうであれ、感謝しなきゃいけないわ。ありがとう、清くん」由佳は真摯に彼を見つめた。

 清次が命を賭して彼女を助けたのだから、由佳もまた命を懸けて恩を返すつもりだ。

 もし彼が危険な目に遭えば、彼女も命を賭して助けるだろう。ただ、もう彼を信じることも、自分の心を再び彼に託すこともできない。

 由佳の感謝の言葉は、清次にとってひどく耳障りだった。

 清次は皮肉めいた笑みを浮かべ、「口先だけの感謝か?」

 「じゃあ、どう感謝すればいい?」

 「俺のために…」清次は言いかけて、少し間を置いた。「…退院するまで、病院で俺の世話をしてくれないか?」

 一瞬、彼は「俺から離れないでほしい、もう一度結婚してほしい」と言いたかった。

 由佳は眉をひそめ、清次が彼女を困らせたと感じ、後悔し始めた瞬間に、彼女はうなずいた。

 「いいわ」

 彼女の返事に清次は心の中で大きな喜びを感じた。

しかし、その後すぐに彼女の言葉が続いた。

「あなたは私を助けるためにけがをしたんだから、私があなたの世話をするのは当然のことよ」

 清次の表情は硬直し、心の中の喜びは一瞬で消え去った。

 彼は目を伏せ、苦笑を浮かべた。彼女が数日世話をしてくれたところで、何になるというのだろうか?

 結局、彼らは別れる運命なのだから。

 「やめてくれ、冗談だよ。おばさんが俺の世話をしてくれる。これからどうするつもりだ?」

 由佳は正直に答えた。「高村さんと北田さんと旅行に行くわ」

 「どこに行くんだ?」

 「まだ決まってないわ」

 「いつ出発する?」

 「ここ数日中には」

 清次は喉が上下した。

 そん
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