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第294話

後部座席の左右からそれぞれ一人ずつ降りてきた。一人は隼人で、もう一人は俊介だった。

清次は二人を門前払いせず、書斎に招き入れ、コーヒーを淹れて席に着かせた。

少しの挨拶の後、隼人は株主総会の決議について話した。

清次はそれを聞いても特に驚くことなく、落ち着いた様子で二人の取締役にコーヒーを注ぎ、自分は当面、山口グループに戻る考えがないことを丁寧に伝えた。

理由は二つあった。まず、祖父が亡くなり、その直後に妻が流産したことで、自分にとって非常に大きな打撃を受け、心の平穏を取り戻すためには時間が必要であり、会社の業務に忙しくする余裕がないこと。

次に、以前から言っていた通り、自分と取締役会の理念が合わず、翔が現在総裁の地位にいることもあり、兄弟で争いたくないということ。

隼人と俊介は仕方なく顔を見合わせ、二杯の茶を飲んで手ぶらで帰っていった。

しかし、社長の職が空席のままだと、株主たちの不安は解消されなかった。

その後も俊介は二度来訪したが、結果は出なかった。

由佳は五日間病院に入院し、五日目に高村さんが見舞いに訪れた。

高村さんは慰めの言葉をかけながら言った。「子供がいなくなったからといって希望がなくなるわけじゃないの。子供は私たちの人生の一部に過ぎないのであって、人生のすべてではないの。他の家族も同様だよ。彼らは私たちの生活に影響を与えるけれど、完全に左右するわけではないわ。私たちは私たち自身であり、彼らのために生きるのではなく、自分のために生きるの。自分が幸せで楽しく過ごすことが、この世を生きる意味だと思うの」

高村さんの両親はこのように彼女を教育してきた。

高村さんは、恵まれた家庭環境に生まれ、両親がとても開明的であることを幸運に感じていた。

ただ、高村さんも知っていた。由佳と自分の育った環境は違い、性格も異なることを。

由佳の幼少期の経験が、彼女にとって限られた家族の絆を大切に思わせていたのだ。

だからといって、高村さんは由佳がすぐに気づくとは思っていなかった。

「ところで、清次さんといつ離婚することにしたの?」

由佳は「退院して、金閣寺から帰ってきたら」と答えた。

「じゃあ、離婚したらどうするか考えているの?」

由佳は首を振り、窓の外をぼんやりと見つめた。

この時初めて気づいたのだが、会社を辞め、子供もいなくなり、さら
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