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第114話

由佳は彼を見上げ、信じられない思いでいっぱいだった。

山口家族に来てから、彼はずっと冷たくも、親しくもなく、中立的な態度だったのに、どうして突然ケーキを持ってきたのだろう?

「気に入らないのか?」彼女の表情を見て、山口清次は問い返した。

由佳は首を振り、急いで頷いた。

気に入らないわけがないだろう

由佳はクラスメートがこの店のケーキを食べているのを見たことがある。このベーカリーのケーキはとても高価だった。幸運にも一度だけ抹茶ケーキを味わったことがある。その味は忘れられなかった。

その時、父の給料は二人を養うのに精一杯だった。父は由佳に惜しみなく接し、スイートメロディのケーキは高価で、アフタヌーンティーのように贅沢なものだった。普通の家庭で育った由佳にとってはとても貴重なものだった。

「気に入ってくれたならよかった。」山口清次は淡く微笑み、二階に上がっていった。

由佳はその場に呆然と座り、目の前の紙袋の包装を見つめながら、信じられない気持ちでいっぱいだった。山口清次が二階に上がりかけた時、彼女はようやく反応し、「ありがとう、お兄さん」と言った。

山口清次が聞こえたかどうかはわからないが、由佳は自分の声に甘い喜びが込められていることを感じていた。

初めて彼らの間の会話が単なる挨拶ではなくなった。

まるで目の前のケーキのおかげで、二人の関係が一歩前進したように感じた。

彼女はケーキの包装紙袋を手に取り、満足げに眺めた。

この瞬間、退屈な数学と物理の宿題でさえ、愛らしく思えた。ケーキを隣に置き、自分に言い聞かせた。早く宿題を終わらせたら、ケーキを食べられるんだ、と。

その日、予想通り、彼女は普段よりも30分早く宿題を終わらせ、ケーキの包装を慎重に開けた。まるで宝物のように扱った。

包装を開けた後、すぐに食べずに、まずは携帯で何枚か写真を撮った。

どれも満足のいく写真が撮れず、やっと一枚写真を選び、SNSに投稿した。文字は何も添えず、ただケーキの写真だけを。

それは彼女の無言の喜びを表していた。

それは彼女の言葉にできない少女の気持ちを表していた。

それは彼女のその時の一番純粋で無垢な恋心を表していた。

その日はスイートメロディのブラックフォレストケーキが特に美味しくと感じた。抹茶ケーキよりも百倍美味しかった。

その後、由佳はしばしば
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