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第113話

彼女はまた食欲がそそられ、ベーカリーのブラックフォレストケーキが食べたくなった。

「運転手さん、ここで少し待っていてください。ちょっと買い物に行ってきますので。」由佳はそう言って車を降り、光の広場に急いで入って行った。

そのベーカリーはスイートメロディと呼ばれ、光の広場で長年営業しており、とても人気がある。

由佳が到着した時、店内は多くの人で賑わっていた。

彼女はまっすぐ左側のガラスケースの前に進み、店員にブラックフォレストケーキを一つ選んでもらった。さらにナポレオンケーキも一つ追加し、レジでお金を支払った後、紙袋を持って店を出た。

ベーカリーを出た時、由佳は二人の女性とぶつかってしまい、「ごめんなさい」と言って回り道をしようとした。

すると、誰かが彼女を呼び止めた。「由佳?」

由佳は足を止め、振り返ってみると、マスクと帽子をかぶった女性が歩美だと気づいた。

隣にいるマスクをしていない女性は歩美のアシスタントだった。

歩美は一歩前に進み、由佳の手にある包装袋を見て、「あなたもケーキを買いに来たの?この店のケーキが好きなの?偶然ね、私も大好きなの。」と言った。

「歩美さん、こんなに忙しいのに自分でケーキを買いに来るなんてすごいですね。」

「もちろんよ。」

「では、どうぞ。先に失礼します。」由佳はそう言って歩き出した。

歩美は背後から再び声をかけた。「ちょっと待って、あなたが買ったのはブラックフォレストケーキでしょう?」

由佳は全身が硬直した。

スイートメロディの包装は精巧な紙箱であり、外からは何が入っているか分からない。歩美がなぜ知っているのだろう?

「どうして私が知っているか気になるでしょう?」歩美はマスク越しに笑いながら由佳の前にゆっくりと近づいて言った。「私もこの店のブラックフォレストケーキが大好きだからよ。」

由佳は唇を引き締めた。歩美が何を言おうとしているのか、自分には予想がついていた。

 自分は立ち去るべきだった。

しかし、足は重くて動かない。

「山口清次とまだ付き合っていた頃、彼は私がこの店のブラックフォレストケーキが好きだと知っていて、よく買ってきてくれた。特に喧嘩をした時は、一つ持ってきてくれるだけで、私はすぐに彼を許していた。でも、ある時ひどく喧嘩して、彼がケーキを持ってきても私は怒ったままで、彼を家に入れな
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