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第75話

和泉夕子は受付で確認した後、社長室に向かった。

望月景真は頭を揉みながら、疲れ切った表情をしていた。

和泉夕子はドアをノックし、「社長」と声をかけた。

望月景真は顔を上げ、彼女を一瞥した。

「来たのか」

和泉夕子は軽くうなずき、彼の前に進み、「何か私に手配してほしいことはありますか?」と尋ねた。

これまで藤原家が接待する場合、相手を楽しませて満足させることが主だったが、今回は彼の個人秘書としての仕事を求められているため、まずは彼の要望を聞く必要があった。

望月景真はこめかみを揉む手を止め、穏やかな声で言った。

「特に何かを手配する必要はない。ただ、会議の時にコーヒーを淹れてくれればいい」

「かしこまりました」

そう言って和泉夕子は部屋を出ようとしたが、望月景真は彼女の背中を見つめ、ぼんやりと思いを馳せていた。

その背中には、どこか見覚えがあるような気がしてならなかった。まるで何度も見たことがあるような…

思い出そうとするたびに、頭が痛んでくる…

彼は軽く首を振り、携帯を手に取って相川言成にメッセージを送った。

相川言成はちょうど会議中で、彼のメッセージを見てすぐに返信した。

「また頭痛か?何か思い出したのか?」

「いや、ただ、ある人を見てとても懐かしい気がした。それだけで頭が割れそうなんだ」

「誰を見たんだ?」

望月景真はその問いに、急に返事をしたくなくなった。もし相川言成に和泉夕子を見て頭が痛むと言えば、彼女が危険に晒されるような気がしたのだ。

その考えが一瞬頭をよぎったが、彼は気にせず「知らない人だ」とだけ返し、携帯を置いて会議に向かった。

望月家のA市支社は、規模こそ帝都ほどではないが、東方街にある一棟を占めるほどの大きさだ。

望月景真は全体幹部会議を招集しており、数十人のビジネススーツ姿の社員がノートパソコンを抱えて次々とエレベーターで上がってきた。

あっという間に広い会議室は人で埋まり、活気が溢れた。

和泉夕子は外の応接スペースに座り、ガラス越しにその集団を見て、少し羨ましさを感じていた。

彼女も設計事務所出身であり、本来ならそれなりの仕事を経て成長していくことができたはずだ。

しかし、当時の状況では、夢を追うことはできず、すぐに安定した給料の仕事を見つけるしかなかった。

過去のことを思い返しながら、和泉
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