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第79話

霜村涼平は直接、和泉夕子のことを問い詰めることはなかった。彼女は兄さんがかつて関係を持っていた女性であり、多少の面目は立てなければならなかった。

しかし、約束を破った望月景真をそのまま見逃すわけにもいかず、藤堂嵐の件で八つ当たりをする形になった。

望月景真は霜村涼平の挑発にも怒らず、ただその目に冷ややかな光が宿った。

「縁談の話は、私の父が私に断りなく勝手に決めたことだ。私は君の妹と結婚するつもりはない。どうか、涼平様、真に受けないでいただきたい。」

この言葉に、霜村涼平の顔色は一瞬で青ざめた。美しい顔立ちがみるみるうちに暗くなった。

「つまり、婚約を破棄するつもりか?」

望月景真は淡々と笑った。

「婚約などしていないのだから、破棄する必要もないだろう」

ただの縁談の話に過ぎず、まだ具体的な話は進んでいない。

しかも、当事者同士の同意がなければ、どうして勝手に結婚の話が進むのか?

これほどの人前で、望月景真のこの発言は、霜村家の顔に泥を塗る行為に等しかった。

霜村涼平は普段、遊び慣れており、望月景真のように冷静沈着な性格には育っていない。

彼はすぐに軽く望月景真に手を出そうとしたが、その袖をまくり上げる前に霜村冷司に制止された。

「涼平」

彼は上座に座り、冷淡でありながらも圧倒的な威厳を放つ姿で、会場の全員を驚かせた。

さすが霜村家の唯一の後継者、その存在感は圧倒的だった。

霜村冷司は冷静な目で望月景真を見つめ、その無感情な声が大広間に響き渡った。

「最初に縁談を持ちかけたのは、お前の父親だ。破談にするのは構わないが、父親がどう頼み込んだのか、そのままの形で破談を申し出るようにしろ」

彼の「頼み込む」という一言が、場の空気を一変させた。

なるほど、望月家が霜村家に縁談を持ちかけたのか、と皆は理解した。

今まで彼らは、霜村家と顧家が強力な同盟を結ぶための縁談だと思っていたが、実際は望月家が霜村家の権威にすがろうとしていたのだ。

この場にいる者たちは、望月家の背景や実力、影響力に遠く及ばないにもかかわらず、その事実を見て鼻で笑っていた。

望月景真は、周囲の冷たい視線を一切気にせず、霜村冷司の提案を受け入れた。

「ご安心ください。私の父にこの件をしっかり処理させます」

そう言い終えると、彼はすぐに和泉夕子を探しにその場を離れ
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