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第84話

しかし、藤堂嵐は和泉夕子の心中など知る由もなく、ただ彼女を自分の面子を潰した元凶だとしか思っていなかった。

宴が終わると、彼女は涙を浮かべながら父である藤堂天成と兄の藤堂恒に訴えた。

「お父さん、お兄ちゃん、お願いだから私の恥を晴らして!」

藤堂天成は、彼女の泣き声を聞くなり反射的にその頬を打ち、

「我慢が足りないせいで霜村冷司を怒らせたくせに、よくもまあ私の前で泣けるな!」

藤堂嵐は思わず泣き止み、信じられないような表情で藤堂天成を見つめた。

「お父さん、どうして私を叩いたの?」

「お前に教訓を与えなければならないだろう。霜村冷司に逆らうとは何事だ。それに、望月景真が連れてきた女に手を出すなんて、無謀にもほどがある。彼ら二人は、一人がA市で絶対的な力を持ち、もう一人が帝都で影響力を誇る存在だ。お前はその二人を同時に敵に回したんだぞ!」

藤堂天成は顔を青くし、激しい怒りに体が震えた。もし藤堂恒が彼を止めていなければ、藤堂嵐はさらに厳しい罰を受けていただろう。

藤堂嵐は、これまで何かと自分を甘やかしてくれていた父親が、他人のために自分を叱るとは思ってもみなかった。涙を浮かべたまま顔を押さえて家を飛び出していった。

藤堂恒は妹が飛び出していくのを見て、やむなく彼女を追いかけた。

こうして藤堂家のお見合い宴は大混乱となり、その騒動は出席者全員に知れ渡ってしまった。

一方、和泉夕子は望月景真に手を引かれ、藤堂家の屋敷を出ていた。

望月哲也が車を取りに行っている間、望月景真は彼女の手を離すことなく、玄関で共に待っていた。

和泉夕子は彼の手を見つめ、何事もなかったかのようにそっと手を振り払った。

その瞬間、柔らかな手が彼の手から離れ、望月景真の目にはわずかに失望の色が浮かんだ。

彼女は、彼が先ほど自分を助けてくれたことを思い出し、礼儀正しくお礼を述べた。

「社長、先ほどはありがとうございました」

彼女の冷静で丁寧な口調に、望月景真はさらに深い失望感を覚えた。

彼は和泉夕子の腫れた頬に目をやり、内心の罪悪感を隠しきれずにいた。

「本当に申し訳ない。僕のせいで君がこんな目に遭ってしまって……」

和泉夕子は気にしないように微笑みながら答えた。

「大丈夫です」

一発の平手打ちくらい、過去に彼に蹴られた痛みに比べれば何でもなかった。

望月景
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