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第31話

会場の入り口から、黒いスーツを着た十数名のボディガードがドアを押し開け、堂々と入ってきた。

林原辰也は両手をスーツのポケットに突っ込み、ゆっくりとした足取りで歩を進める。

その威圧的な登場に、満席のゲストたちは一瞬で静まり返り、誰もが何も言えずに固まっていた。

白石沙耶香と江口颯太は、突然の出来事に動揺し、呆然とその場に立ち尽くしていた。

その瞬間、和泉夕子の顔色が一気に青ざめた。

彼女は林原辰也が来ないだろうと思っていたが、まさか婚礼の最中に乗り込んでくるとは夢にも思わなかった。

彼がこの大切な結婚式を台無しにするのではないかと恐れた夕子は、慌てて席を立ち、彼に向かって足早に近づいた。

「林原社長」

夕子はT字型のステージに向かおうとする林原辰也をなんとかその場で押し止め、「契約書はもうサイン済みです。今夜、必ずお渡しします」と静かに告げた。

林原辰也は彼女を頭の先から足の先までじっくりと眺め、彼女が着ているシャンパン色のセクシーな伴娘ドレスに目を留めた。彼の灰色がかった黒い瞳には、一瞬欲望の火が灯った。

彼は片手で夕子の腰を引き寄せ、彼女を自分の胸に押しつけながら、なれなれしく触れてきた。

「もうサインしてるのに、なんで早く渡さないんだ?」と不敵な笑みを浮かべながら、彼は彼女にささやいた。

夕子は内心で吐き気を覚えながらも、慎重に彼をなだめた。

「林原社長、私はこの結婚式を無事に終わらせたいだけです。あなたが契約書を手にした途端、約束を破ってこの式を壊すんじゃないかと心配で……」

「俺を信用できないのか?」

「その通りです」

夕子は冷静な口調で続けた。

「林原社長、契約書が欲しいなら、今夜まで待ってください」

彼女の柔らかなメイクと落ち着いた表情は、強い意志を隠し切れず、まるで譲歩する余地がないように見えた。

林原辰也はその態度に少し驚き、皮肉な笑みを浮かべた。

「どうせまた嘘をついているんじゃないか?」

夕子はスマホを取り出し、事前に作成した偽の契約書をPDFで彼に見せた。

「林原社長、よく見てください。これは霜村会社の契約書で、印鑑もちゃんと押してあります。偽物じゃありません」

彼女は社長室での主な仕事として、取引先の接待や契約書の管理を担当していたため、季社の契約書や印鑑に精通していた。

彼女は霜村会社の他の
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