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第34話

和泉夕子は、心臓が早鐘のように打ち鳴り、不安と恐怖が胸の中で渦巻いていた。目の前の男はなぜ林原辰也を装って自分に接近してきたのか?

なぜ素顔を見せず、入ってきた途端に部屋の明かりをすべて消したのか?彼は一体何を企んでいるのだろう?

彼女の頭は混乱し、次にどうすべきか分からなかった。

もともと計画していたのは、林原辰也を罠にかけて殺すことだったが、今は見知らぬ男が現れ、全てが狂ってしまった。彼女はどうすればいいのか?

心の中は嵐のように揺れていたが、表面上はなんとか冷静さを保とうと努力した。相手が誰であれ、部屋に入った以上は、彼を薬で倒すしかない。

夕子は深呼吸し、握っていた拳を静かに解き、自然な口調で言った。

「林原社長、もしコスプレを楽しむなら、せめて明かりをつけた方がいいですよ。真っ暗で何も見えないじゃないんですか」

彼女は話しながら、ゆっくりとテーブルに近づき、安眠薬を混ぜたワインから少量を空のグラスに注いだ。

そのグラスを手にして、彼女は男の前に進み、ワインを差し出した。

「林原社長、まずは一杯飲んでリラックスしましょう」

本来の計画では、林原辰也が来て契約書を渡した後、必ず彼が彼女に手を出すだろうと考えていた。

そこで彼に酒を勧め、安眠薬が効き始めたら短刀でとどめを刺すつもりだった。

その後、彼の罪を暴露する映像を録画し、自分が彼を殺した理由も明らかにする。そして、全てを終えた後、自らも手首を切り、命を絶つ計画だった。

この計画がうまくいけば、林原氏の人間も、彼女が林原辰也と情事に巻き込まれた結果だと思い、白石沙耶香には何の害も及ばないはずだった。

だが、予想外の人物の登場により、全てが狂ってしまった。

今、この男を殺すわけにはいかなかった。

林原辰也を片付ける前に、もう一つの殺人を犯すわけにはいかない。

だから、ワインには少量の薬しか入れていなかった。それでも相手を一時的に昏倒させるには十分だった。彼を倒した後に別の部屋を急いで予約し、その場所を林原辰也に送るつもりだった。

もし林原辰也が彼女の連絡を待たずに行動すれば、沙耶香と江口颯太の新婚の夜は台無しになってしまうだろう。

しかし、男はワインを受け取ろうとはせず、じっと彼女を見つめ続けた。

その目には、まるで彼女の思惑を全て見透かしているかのような光が宿っていた
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